30万打感謝企画 | ナノ


頬杖が外れてカクンと頭が揺れ、意識がはっきりした。

壁の時計を確認すると、もう夜中の十二時を回っていた。

広い部屋を見回しても、彼が帰ってきた気配はなくて、しんと静まり返っている。

照明が点いたままで部屋は明るいけれど、気持ちは暗くなる。

昼間は平気だけど、夜は一人なのが淋しく感じてしまうから。

なんだか小さな子供みたいだと、私は小さく苦笑いを零してから立ち上がった。

キッチンの冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットボトルからコップへと中身を注ぐ。

冷えた水を流し込むと、こくりと喉が鳴った。

空になったコップをシンクに置き、今日はもう寝てしまおうかなと考える。

遅くなると連絡があっただけで、何時に帰ってくるのか分からないのだ。

一つ溜息を零してからキッチンを出た時、玄関で物音がした。

急いで玄関まで迎えに出れば、愛しの旦那様が革靴を脱いでいるところだった。

「おかえりなさい、景吾。」

「…ああ、ただいま。」

景吾は少し驚いた顔をした後、ふっと柔らかく微笑み、私の唇にキスを落とした。

「わざわざ待っていてくれたのか?」

「うん。待っている途中に居眠りしちゃってたけど。」

話しながら、ネクタイを緩めた景吾からスーツの上着を受け取る。

「そうか。悪いな、なかなか早く帰れなくて。」

「ううん。それより、忙しくて大変だね。」

「まあ、多少はな。今進めているプロジェクトを成功させたら、まとめて休みを取るさ。」

「あんまり無理しないでね。」

「ああ。…明日は休みだし、たまには晩酌に付き合え、なまえ。」



景吾がシャワーを浴びている間、私は短時間で作れる簡単なおつまみを二種類ほど用意していた。

皿に盛り付けたおつまみをテーブルに並べて、ワインとグラスを置いた所で、タイミングよく着替えた景吾が戻ってきた。

「ちょうど準備できたよ。」

「ああ。…ほんと、料理は得意だよな。」

テーブルの上を見た景吾が感心したように言ってソファーに腰を下ろす。

その隣に座ると、ボトルのコルクを開けた景吾がグラスに鮮やかなルビー色のワインを注いでくれる。

自分のグラスにもワインを注いだ景吾と、グラスを持ち上げて乾杯をする。

グラスを傾ければ、上品な香りが鼻腔を擽った。

心地好い飲み口で、あまりお酒が得意ではない私でも美味しく感じた。

「さっきの休みの話だが、おそらく来月中には取れる筈だ。」

「来月か。何日くらい休めそう?」

「そうだな…1週間位は休んでも問題ないだろ。」

「そんなに休んで大丈夫なの?」

休めるのはせいぜい2、3日くらいだろうと思っていた私は驚いて向かいの景吾を見た。

「俺が居ないと満足に仕事が出来ないような奴は使ってねーよ。それより、予定を決めないとな。」

「そうだね。……ありがとう、景吾。」

「礼を言われる事じゃねーよ。俺にとってもお前との時間は大事なんだぜ。」

優しい色をした瞳に、胸の中が温かいもので満たされる。

「じゃあ、明日は旅行のパンフレットとか貰ってこないとね。」

「それと、久しぶりにデートだな。」

「うん。」



「なまえ、大丈夫か?」

「…うん、大丈夫。」

ベッドの端に座った景吾が、横になっている私の頬に手の甲を当てる。

火照った頬には景吾の手が冷たく感じて、ひんやりと気持ちいい。

久しぶりに二人でゆっくり話が出来て、休みのことも嬉しくて、つい飲み過ぎてしまったのだ。

と言っても、お酒は強くないから、景吾の半分も飲んでいないのだけれど。

「景吾は寝ないの?」

「さすがに俺も寝るぜ。」

さらりと私の髪を撫でてから、景吾はベッドの反対側に回って私の隣に滑り込んだ。

景吾のほうを向くと、ぐいっと引き寄せられた。

抱き締められて、伝わってくる温もりに、すごく安心する。

「私は嬉しいけど、景吾は寝にくくないの?」

「そんなことねーよ。…もう寝ろ、なまえ。」

額に落とされる口付けが優しい。

「…うん、おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ。」

もう一度額に口付けられ、私はそのまま景吾の腕の中で幸せを感じながら目を閉じた。




(2012.09.17)

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