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同級生/ヒロイン視点


参道の石畳の両脇には夜店が立ち並び、祭囃子と人々の楽しそうなざわめきが聞こえてくる。

私は境内へ続く石段の端に座って賑やかなお祭りの様子を一人で眺めていた。

クラスメイト達と神社の夏祭りに来ていたのだけれど、途中ではぐれてしまったのだ。

おまけに履き慣れない下駄の鼻緒で擦れてしまって足が痛い。

ついてないなぁ、と小さく溜息を零す。

(せっかく忍足くんも一緒だったのに。)

しかも、忍足くんが誘ってくれたのだ。

忍足くんはクラスの皆に声をかけていたから、私だけが特別という訳ではないのだけれど。

楽しみだったのになぁ、と今度は深い溜息を吐いて膝の上に両手で頬杖をつく。

せっかく着てきた紺地に鞠と花が淡い色遣いで描かれた新しい浴衣も、これじゃあ意味がない。

「みょうじ! ここにおったんか。」

耳に飛び込んできた声に、いつの間にか落ちていた視線を上げれば、鮮やかな金髪が提灯の明かりに照らされていた。

「一人でおらんくなって心配やったけど見つかって良かったわ。」

目の前で明るい笑顔を見せる忍足くんに驚いて、ぱちぱちと目を瞬かせる。

もしかしなくても、私のことを探してくれていたのだろう。

面倒をかけて申し訳ないと思うのと同時に、忍足くんに見つけてもらえて嬉しいとも思ってしまう。

「自分、足ケガしとるん?」

下駄を脱いでいることに気付いた忍足くんが心配そうに私の足を見る。

「ううん、慣れないから少し疲れちゃっただけ。大丈夫だよ。」

余計な心配をかけないように笑顔を向けると、忍足くんはほっとしたように息を吐いた。

「さよか。俺も少し休んどこ。」

忍足くんがすぐ隣に腰を下ろすものだから、緊張して身体がこわばってしまう。

「せや! エエもんがあってん。」

思い出したように声を上げた忍足くんはハーフパンツの後ろのポケットに手をやる。

なんだろう?と思っていたら、星の形をしたべっこう飴が目の前に現れた。

「これ、やるわ。」

「可愛いね。もらっていいの?」

「おん、遠慮せんでエエで。ちゃんと自分の分もあるし。」

新しく取り出した真っ赤なべっこう飴を私に見せた忍足くんにお礼を言って、透き通った黄金色のべっこう飴を受け取る。

「……あ、みょうじが見つかったって連絡せんと。」

「ごめんね、皆に迷惑かけて。スマホの充電が切れちゃって…」

「すぐ充電なくなってまうから困るやんな。それに、ぎょうさん人おるからはぐれてまうのも無理ないて。」

「でも…」

「そない気にせんでエエって、な。」

眉を下げていると、屈託のない笑顔を向けられて、私の鼓動は小さく跳ねた。



並んで座ったまま色違いの星形のべっこう飴を片手に話していると、あっという間に時間が過ぎた。

「そろそろ花火の打ち上げが始まる時間やし、ここで見ようや。」

「でも、花火は皆で見ようって話に…」

下駄を履いて浴衣の裾を直していた私が顔を上げると、忍足くんはとても真剣な目をしていた。

「俺は自分と一緒におりたいんやけど…アカンか?」

骨ばったゴツゴツした手が控えめに私の手の甲に重ねられて、鼓動が高く跳ねた。

「っ、……そんなことないよ。私も、その……忍足くんと二人でいたい。」

私なりに精一杯の勇気を出して正直な気持ちを伝える。

「そ、そうか。」

「うん…」

頬に熱が溜まるのを感じていると、ドンッと大きな音がして夜空が明るくなった。

居た堪れなさもあって夜空へと視線を移す。

「すごい……綺麗だね。」

「おん、キレイやな。」

重ねられている手に鼓動が収まらないまま、次々に打ち上がる色鮮やかな花火を見上げる。

夜空を彩る花火は本当に綺麗で、すぐ隣には忍足くんがいる。

不意に、上から指を絡められて、私はビクッと身体を揺らした。

ひときわ大きな音が鳴って夜空に大輪の花が咲く。

「俺、みょうじのことが好きや。」

「私も……忍足くんが好き。」

今まで言えなかった言葉がするりと自分の口から出てきた。

花火の大きな音が響く中、お互いに見つめ合う。

そして、ゆっくりと忍足くんの顔が近付いてきて、私は静かに目を閉じた――



夏の訪れ

(2013.08.03)

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