※未来設定
婚約者/ヒロイン視点
小さな頃から憧れていた。
純白のドレスを纏って赤い絨毯の上を歩き、愛する人と永遠の愛を誓い合うことを――
「すごい、素敵…」
見た瞬間、うっとりとした溜息が出た。
繊細な金色の刺繍が施され、輝く宝石が散りばめられた純白のウェディングドレスは、華やかでありながら上品だ。
「なまえ様、お手伝い致しますのでお召し替えを。」
「あ…はい。」
側に控えていたメイドさんに声をかけられ、今日は最終的なフィッティングする為に彼の家に呼ばれたのだと思い出す。
オーダーメイドのウェディングドレスの本縫いが終わったと連絡があったのだ。
細部まで手の込んだウェディングドレスに身を包み、それに合わせてデザインされたヴェールやグローブそれにティアラなどのアクセサリーも身に着け、私は豪華な額に縁取られた大きな鏡の前に立った。
「…どうかな?」
着替えを手伝ってくれたメイドさん達や仕上がりの確認を終えたデザイナーさんを下がらせた、自分の婚約者に視線を投げかける。
「よく似合ってるぜ、なまえ。…綺麗だ。」
「っ、……ありがとう。」
酷く柔らかい笑みを向けられ、じわりと頬が熱を持つ。
「本当に綺麗だぜ。」
少し火照った頬に骨ばった手が添えられ、反対側の頬に唇が押し付けられた。
「……えっと、景吾?」
急に横抱きにされてしまい、戸惑いながら景吾を見上げる。
「着替えないと。」
「もう少しいいだろ。式の当日はゆっくりお前の姿を見ていられないだろうからな。」
耳元に唇が寄せられ「今は俺に独占させろ」と甘く囁かれたら、大人しく従うしかない。
景吾は私を抱き上げたまま部屋を横切り、日当たりの良い窓辺に置かれているソファーに腰を下ろした。
私は景吾の膝の上に横座りをする形で抱き留められている。
窓からは穏やかな陽光が優しく降り注いでいて心地好い。
「なまえ…」
優しげな表情をした景吾の顔が近付いてきて、私はそっと目を閉じた。
柔らかな唇が額に目蓋に頬にと次々に触れる。
だけど、唇には触れてくれなくて、私は閉じていた目を開けた。
「そんなに不満そうな顔すんなよ。ここは、本番に取っておかねぇとな。」
ふっと笑った景吾が指先で私の唇をなぞる。
「もう何度もキスしてるじゃない。」
「だが、この姿は特別だろ?」
「…じゃあ、着替えてくる。」
景吾の膝の上から下りようとするけど、腰に絡んだ腕によって簡単に阻まれてしまう。
「もう少し俺を楽しませろよ。後で、いくらでも口にしてやる。」
不満はあるけれど、こんなに綺麗なドレスが挙式の日にしか着られないのは勿体ないとも思うから、今は景吾の我侭に付き合おう。
「本当に、後でいっぱいキスしてね。」
そう言って、景吾の首に腕を絡めて目の下の黒子に唇を寄せた。
「ああ。」
また、顔中にキスが降ってくる。
ちょっと擽ったくて、剥き出しの肩を小さく竦めるけれど、私の口元は笑みを零していた。
甘いキスの雨が止んで、そっと目を開ければ、景吾は真剣な目をして私を見つめた。
「愛してるぜ、なまえ。これ以上ないくらいに幸せな花嫁にしてやる。」
「私も景吾のこと、幸せにしてあげる。」
微笑んで、私は景吾の唇に自分の唇を重ねた。
「…おい。」
「予行練習、だよ。」
愛される花嫁
(2013.06.22)
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