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同級生/千石視点


つい今しがた告白した相手に振られてしまった俺は、ションボリと肩を落としながら廊下を歩いていた。

自分の教室まで戻ってくると、彼女がまだ残っていて、俺はなんだか救われたような気持ちになった。

「なまえちゃ〜ん、聞いてよ〜」

ガラッとドアを開けて、自分の席に座っている彼女のもとに向かう。

彼女の前の席のイスを引いて後ろ向きに跨り、机を挟んで彼女と向かい合わせになる。

「千石くん……だめ、だったの?」

眉を曇らせて気遣わしげに聞いてくる彼女に、俺はいつも甘えてしまう。

「結構いい感じだと思ってたんだけどね〜 なんで伝わらないかなぁ? 好きなのにさ、ウソっぽいとかヒドイよね〜」

「そう言われちゃったの?」

シリアスになり過ぎないように軽い口調で話す俺に、彼女は呆れることもなく話を聞いてくれる。

「そうなんだよ〜 『いきなり好きって言われても信じられない』って…俺は愛に時間は関係ないって思うんだけどなぁ。」

「そうだね。」

「やっぱりさ、そう思うよねっ!?」

彼女が同意してくれたことが嬉しくて、思わず机の上にあった彼女の両手を握った。

初めて触れた彼女の手は小さくて柔らかくて、当たり前だけれど、女の子の手だった。

「うん。好きだと思ったら…どうしようもないよね。」

「なまえちゃん…。」

今、彼女は誰のことを思い浮かべたのだろうか。

「なまえちゃんは……誰か好きな人、いるの?」

そういう表情をしていた、ように思う。

「…いるよ。」

少し視線を落とした彼女の頬が淡く染まっている。

「その人に告白しないの?」

どうしてだろう。

胸の中がザワザワしている。

なんだか落ち着かなくて、俺は握っていた彼女の手をそっと離した。

「しないよ。困らせてしまうもの。その人は私のことなんか好きじゃないから。」

悲しそうな顔でそんなふうに言う彼女の姿に、胸がズキズキと痛む。

「でもさ、まだ分かんないじゃん! これからだって!」

「ううん、絶対に困るよ。」

「そんなことないって。なまえちゃんは可愛いし良い子だから……大丈夫、だよ。」

なんか、今の俺は上手く笑えていない気がする。

「……ありがとう。」

彼女は静かに言って、伏せていた目を上げる。

「なまえ、ちゃん…?」

「好きなの。私、千石くんのことが好き。」

俺をまっすぐに見て微笑んだ彼女は、とても綺麗だった。

けれど、すぐに泣きそうに歪んだ彼女の顔。

「ね、困ったでしょ?」

「あ……いや…」

「いいよ、なにも言わなくて。…じゃあね。」

立ち上がった彼女は自分の鞄を持つと、言葉を見つけられない俺を置いて教室を出て行った。

「ちょっと、……待ってよ…」

イマイチ回らない頭で考える。

自分が彼女に甘えてしまう理由。

彼女に好きな人がいると知って動揺した理由。

「……ダメ過ぎじゃん、俺。」

俺は何も持たずに教室を飛び出した。



この恋に気付いて

(2013.02.02)

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