※「心の扉をたたく」の続編です。
同学年/ヒロイン視点
あくびをして眠い目を擦りながら、冷めたおかずをお弁当箱に詰めていく。
いつもより彩りに気を使ったから見た目はそれなりに綺麗だ。
味は…いつも通り可もなく不可もなくといったところだろう。
でも、冷凍食品を使っていないあたり、私にしてはかなり頑張ったほうだ。
おまけに、ご飯は鮭と白ゴマの混ぜご飯にした。
「って、なんでこんなに頑張ってるんだろ。」
完成したお弁当を見て少し満足感に浸っていた私は、ハッと我に返った。
『今度さ、俺にお弁当を作ってくれないかな。』
幸村がそう頼んできたのは数日前のことだ。
もちろん断った…のだけれど、結局は押し切られてしまった。
……いや、本当はそんなに強引に頼まれた訳じゃない。
作るのが一人分増えるのはそれほど面倒じゃないから、仕方なくだけど引き受けたのだ。
そう、仕方なく。
先に屋上で待っていた幸村にお弁当を渡すと、幸村は嬉しそうに笑って両手で受け取った。
「ありがとう、みょうじ。」
「…どういたしまして。」
どうにも居た堪れなくて、私はふいっと視線をそらし、幸村の隣に少し間を空けて座った。
「今日はいつもより手が込んでるね。」
「…まあ、多少は。」
さっそくお弁当箱のふたを開けた幸村をちらりと見れば、やっぱり嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「分かってると思うけど、味は普通だよ。」
何度かおかずを交換しているから(頼まれて渋々)、幸村は私の料理の腕がごく普通だと知っているだろうけど、一応言っておく。
「それがどうかしたの?」
全く否定されなかったことに、少しショックを受けてしまう。
本当のこと、なのだけれど。
「だから、そんな嬉しがるようなものじゃないというか…」
「好きな子の手料理が嬉しくなく訳がないじゃないか。」
「っ……」
あっさりと言った幸村は私を真っ直ぐに見つめていて、頬に熱が集まってくる。
「フフ…真っ赤になって可愛いね。」
柔らかい笑みを向けられて、ますます頬が熱くなるし、心臓も大きく音を立てる。
これがいつも困るのだ。
『遠慮しないから』と言った幸村は、すごくストレートに気持ちをぶつけてくる。
好きだと言われるのも、もう何回目なのか分からない。
「なんで……そういうことばっかり言うの。」
すごく恥ずかしくて、私は俯いて膝の上の自分のお弁当箱をぎゅうっと両手で握り締めた。
「本当にそう思っているからだよ。隠す必要も無いからね。」
「だからって…」
幸村にとってはそうかもしれないけど、言われたほうの私はどうしていいか分からないのに。
「そんなの、困るよ。」
「どうしてだい?」
「どうして、って…」
「ねぇ、みょうじ。そろそろ素直になったらどうかな。」
「え……なにが?」
急になんだろうと、そろりと顔を上げて隣の幸村を見る。
「君、俺の事が好きだろ。」
そう言い切って、強気に笑う幸村を見ながら固まってしまう。
「そんなに分かり易いのに、俺が気付いていないと思っていたのかい?」
「わ、私は…っ 別に…」
じっと見つめられて目が逸らせない。
「俺は君が好きだ。君の気持ちを聞かせて欲しい。」
幸村の目から真剣さが痛いくらいに伝わってくる。
これ以上、逃げることは……出来ない。
「……好き、だよ。幸村が好き。」
観念して素直に告げれば、幸村は今までで一番綺麗な笑顔を見せた。
心の扉をひらく
(2013.01.20)
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