後輩/生徒会役員/ヒロイン視点
後夜祭のダンスパーティーの様子をぼんやりと眺める。
煌びやかなドレスに身を包んだ女の子達と正装をした男の子達が手を取り合って踊っている。
この文化祭の最後を締めくくるダンスパーティーには生徒なら誰でも自由に参加できるけれど、私は参加の申し込みをしなかった。
体育の授業でステップは練習したけれど自信がなかったし、なによりも踊る相手がいない。
踊りたい相手ならいるけれど、それは叶わない願いだから。
小さく零れた私の溜息は流れる音楽に掻き消された。
会場を後にして外へ出ると、冷たい空気が身体を包んだ。
校舎の壁に背中を預けて目を閉じ、聞こえてくる音楽に耳を傾ける。
不意に聞こえてきた足音に目を開けると、目の前には今まさに心に思い浮かべていた人が立っていた。
「何こんなとこで壁の花になってんだよ。淋しい奴だな。」
「…私は参加していませんから。」
胸の高鳴りを抑えて、なんとか冷静に返す。
「まあ、それは知っているが。」
「会長も参加されなかったんですね。」
きっと、女の子たちからのお誘いがたくさんあっただろうに。
「もう会長じゃねぇよ。」
「あ…すいません。」
「いや。それより、お前は誰からも誘われなかったようだな?」
「悪かったですね。それに…誘われたところで断っていましたよ。」
私が望むのは、目の前にいる彼だけなのだから。
報われないと分かっているのに、私の恋心は募るばかりだ。
生徒会に入り、一緒に仕事をするようになって、自然と私は彼に惹かれていった。
一生懸命やって結果を出せば、彼に認められて、それだけで嬉しかった。
でも、いつしか私は欲張りになって、彼の隣に立ちたいだなんて、大それたことを望むようになった。
それからは、ただ苦しいだけだった。
手の届かない存在に恋焦がれるのは。
「…ぃ。おい、聞いているのか?」
彼の声にハッとして意識を戻すと、何故か間近にある彼の顔。
息がかかりそうな距離で顔を覗き込まれていて、私の息は止まりそうになった。
「あ、あああのっ、離れて下さい!」
「何故だ?」
彼は私の後ろの壁に片肘をついており、もう一方の手で熱を持った私の頬を撫でた。
「っ、……会長、お願いですから…っ」
ありえない状況に心臓が壊れそうで、彼の胸を両手で押し返すと、その手を彼に掴まれてしまった。
「嫌がる必要は無いだろう。お前は…」
状況に耐えられなくて、ぎゅっと目を閉じる。
その直後、目蓋に触れた柔らかい感触。
驚いて目を開くと、掴まれていた手を引かれ、彼の胸に飛び込んでしまった。
「あ、あの…っ」
戸惑うばかりの私をよそに、彼は私の手を取り直して背中に手を回した。
そして、私の耳元に唇を寄せる。
「一曲踊ったら教えてやるよ。…色々とな。」
一緒に踊って
(2012.11.23)
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後夜祭でダンスパーティーが行われる、という内容は捏造です。少女マンガや乙女ゲームにありがちなイベントですね。氷帝のテニス部ガイドの情報では『後夜祭では…希望の生徒は…ペアになって踊ります…。(樺地)』となっていましたね。なお、細かい部分ついては捏造した設定になります。