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同学年/マネージャー/仁王視点


耳元で鳴り続けるのは携帯の呼び出し音。

早く彼女の声が聞きたいのに。

「おかしいのう。いつもならすぐ出るんじゃが…」

そう零した途端に、携帯が繋がった。

「みょうじ、俺じゃけど。」

「早く来なよ、仁王。もうすぐ部活が始まるよ。」

「それが迷子になっちょるんじゃ。迎えに来てくれんかの?」

「……仁王、私はもう探さないから。」

いつものような俺の言葉に、彼女からはいつものような言葉は返ってこなかった。

「みょうじ?」

「じゃあね。」

プツリ、と一方的に通話は切られて、空しい電子音が耳の奥に響く。

俺は携帯を片手に握ったまま、校舎の壁を背に、ずるずると地面に座り込んだ。

「捨てられてしまったのう。」

まさか、失うことになるなんて思っていなかった。

彼女は俺から離れないと信じ込んでいた。

その自惚れが招いた結果がこれか。

「ちゃんと言えば良かったのう。」

本心を曝すのは苦手だと、ずっと逃げていた自分が酷く愚かしい。

「少しは傷付いてくれた?」

その声に、俺は俯いていた顔をバッと勢いよく上げた。

俺の前に立った彼女は泣きそうに顔を歪めていた。

「私は傷付いて……泣いてたよ。仁王の気持ちなんて、私には分からないから。」

彼女の目から溢れた涙が頬を伝う。

こんなにも俺は彼女を傷付けていたのか。

いたずらに期待させるだけで、決して本心は口にしなかったから。

「でも、それでも良かったよ。私は仁王が好きだったから。傍にいられるだけで良かった。だけど、もう…っ」

「っ…みょうじ!」

決定的な言葉を言おうとした彼女の手を引いて、自分の腕の中に閉じ込める。

「離してっ!」

「嫌だ、離さん。離しとうない。」

自分の腕の中でもがく小さな身体をきつく抱き締める。

「本当のこと、言ってよ。振り回されてばかりなのは、もう嫌…っ」

震えている彼女の声が耳に痛い。

涙で濡れた彼女の頬を両手で包み込んで、逸らしたくなる視線を合わせる。

「俺はお前さんを好いとう。ただ振り回してた訳じゃなか。…信じてくれ。」

「っ、……うん…」

泣きじゃくる彼女を、俺は再びきつく抱き締めた。

「本当に好きじゃよ、みょうじ。やけぇ、俺の傍におって。」



嘘は嫌い

(2012.11.11)

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