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恋人/ヒロイン視点


腕時計で時刻を確認すると、まだ約束の時間の30分も前だった。

楽しみで待ち切れなくて必要以上に早く家を出てきただなんて、少し…いや、かなり浮かれている。

だけど、今日は初めてのデートの日なのだから、それも仕方ないと思う。

ふとショーウィンドウのガラスに映る自分の姿が目に入り、少し気恥ずかしくなった。

可愛らしい花柄のワンピースとそれに合わせたぺたんこのパンプスは今日の為に用意したものだ。

それに合うようなアクセサリーとバッグをお姉ちゃんから借りて、髪は雑誌を見て自分でアレンジした。

どう見ても、気合いを入れて来たと分かってしまうだろう。

(可愛いって思ってもらえるかな?)

私は落ち着かない気持ちを抱えながら時間が過ぎるのを待った。



約束の時間が近くなり、落ち着きなく周りを見回していると、人混みの中に遠くからでも目立つ金色を見つけた。

謙也くんが走って私のほうに近付いてくるけど、人が多いから思うように進めないらしい。

「スマン、なまえ! 待ったやろ?」

私の顔を見るなり頭を下げた謙也くんは額から頬に汗を滴らせていた。

「ううん、さっき来たばかりだから。それより大丈夫?」

バッグから取り出したハンカチで謙也くんの顔の汗を拭いてあげる。

「ちょ、汚れるからエエって。」

謙也くんは慌てたように、ハンカチを持っている私の手を掴んで離させた。

「これ、洗って返すな。」

ごしごしとシャツの袖で汗を拭った謙也くんが私の手からハンカチを奪う。

「そんなの気にしなくていいのに。」

「いや、気にするやろフツー。…ほな、行こか。」

「うん。」

私は謙也くんの隣に並び、謙也くんの手に自分の手を重ねた。

「え、ちょ、なまえっ?!」

一気に顔を赤くした謙也くんの手をぎゅっと握る。

謙也くんと手を繋ぐのは、これが初めてだ。

ずっと待っていたけれど、今まで謙也くんから手を繋いでくれることはなかったから。

「どうしたの?」

温かい手を離したくなくて、私はにこーっと謙也くんに笑いかける。

「っ、……べ、別に、なんでもあらへん。」

口元を繋いでいないほうの手で押さえてそっぽを向く謙也くんは耳まで赤くなっている。

可愛いなと、口には出さずに心の中でだけ思って、こっそり笑う。

「謙也くんの手、おっきいね。」

男の子だから当たり前なんだろうけど、謙也くんの手は固くてゴツゴツしてて、ちょっとドキドキする。

「なまえの手はちっさいな。細っこくて、力入れたら折れそうや。」

隣を歩く謙也くんは落ち着かなそうに視線をあちこちにやりながら、首の後ろに手をやっている。

「あんな、なまえ。」

「うん?」

「言うタイミング逃してもうたけど…今日、めっさ可愛え。」

「っ……あ、ありがと。」

嬉しくて照れながら謙也くんを見れば、まだ赤い顔で笑い返されて、私はきゅんとしてしまった。

「謙也くん……好き。」

すごく言いたくなって言葉にすれば、謙也くんは大げさに身体を揺らした。

「なっ、急になに言うねん?!」

「謙也くんは?」

わがままだけど言って欲しくて、口をぱくぱくさせている謙也くんを見上げて首を傾げる。

「お、俺も…っ」

「俺も…?」

「っ、…好きやで。なまえが大好きや。」

ちゃんと私の目を見て言ってくれた謙也くんはさっきまでよりも真っ赤な顔をしていた。

私も顔が熱いけれど、ふわふわとすごく幸せな気持ちでいっぱいだ。

――きっと、今日は素敵な日になるに違いない。



お似合いのふたり

(2012.10.08)

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