同学年/仁王視点
「無防備じゃのぅ。」
柔らかな陽射しが降り注ぐ中、俺はあまり人が来ない裏庭の隅にある木の前に屈み込んだ。
俺の定位置になっている場所で木の幹に背中を預け、膝を崩して座っている彼女はどうやら熟睡しているらしい。
「襲われても文句は言えないぜよ。」
なんて言ってみても、あどけない顔で眠る彼女が起きる気配は無い。
彼女の薄く開いた唇から微かに洩れる寝息を聞きながら、その艶やかな髪に指を通す。
指先で彼女の髪を弄んでいると、伏せられた睫毛がふるりと震えた。
「……ん…」
殆ど吐息のような声がして彼女の目蓋がゆっくりと持ち上がり、夢現の瞳が俺を捉えた。
「…? ……ゆめ…?」
覚醒しきっていない彼女は状況がよく分かっていないらしい。
「夢じゃよ。」
「……そう、だよね…」
「夢やけぇ、何でもしちゃるよ。」
やけに寂しそうに呟いた彼女に、甘く囁いてやる。
「……名前、で…呼んで…」
本当に夢だと思ったらしく、少し甘えたような声を出す彼女。
こんな彼女の声は初めて聞いた。
「なまえ。」
請われたままに名前を呼んでやると、彼女の夢見心地な瞳が嬉しそうに細められる。
「……良い、夢…」
「好いとうよ、なまえ。」
完全に夢だと思っている彼女に、いつもは隠している本心を明かす。
「…私も…好き……大好き…仁王…」
幸せそうに微笑んだ彼女は、そのまますぐに眠りに落ちた。
「っ、……反則じゃろ。」
思わず彼女から顔を逸らして自分の口元を片手で覆った。
酷く顔が熱い。
その声も瞳も甘くて、心臓を鷲掴みにされたような心地だ。
いや、そもそも俺の心は彼女の――
(何か負けた気分じゃ。)
熱を持ったままの顔の向きを戻し、そっと彼女の様子を窺うと、それは気持ち良さそうに眠っている。
こっちは眠気なんてやってきそうにないというのに。
「早く起きんしゃい。」
眠る彼女の柔らかな頬を指の背で撫でると、微かに彼女が微笑んだ気がした。
彼女が目を覚ましたら、どうやって同じ言葉を言わせようか。
俺は考えを巡らせながら彼女の隣に腰を下ろした。
秘密のひととき
(2012.06.15)
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