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恋人(先輩)/ヒロイン視点


昼休み、校舎の壁を背にして芝生に座った私は、白い雲が浮かぶ青い空を眺めていた。

じっと見ていると、雲が少しずつ動いて形を変えているのが分かる。

グラウンドのほうからは遊んでいる生徒たちの元気な声が風に乗って聞こえてくる。

「良い天気だなぁ。」

「分かりきったことをいちいち言わんといてください。めんどいッスわ。」

独り言に近い私の言葉に律儀に返ってきたのは可愛くない言葉で、私は小さく笑った。

「なに笑っとるんですか。」

「光の可愛くない所が可愛いなぁって。」

からかうように言って、隣で携帯をいじっている光を見れば、思いきり嫌そうに眉を寄せていた。

「可愛いとか言われても嬉しないですわ。」

「うん、知ってる。」

にこりと笑いかければ、光の眉間のしわが深くなる。

「性格悪ないですか、なまえさん。」

「光には負けるけどね。」

「煩いんで、ちょお黙っといてくださいよ。」

「光が私の口を塞いでくれたら大人しくなるよ。」

「…それが目的ッスか。素直やないですね。」

意図が通じたようで、光は呆れたような顔になった。

「光だって私のこと言えないくせに。」

「うっさいわ。もう黙れや。」

低く言った光は私の正面に移動して後ろにある校舎の壁に手をついた。

私は膝を抱えたまま黙って目を閉じた。

少し乱暴に重ねられた唇はすぐに離れるようなことはなくて、角度を変えて何度も口付けられる。

時折、光の唇から洩れる熱い吐息が頬を掠める。

「……っ…」

急に深く唇を合わせてきた光の肩を押し返すけれど、そのくらいの抵抗ではどうにもならない。

呼吸が奪われてしまうような口付けに、光の肩を掴んでいる手から力が抜けてくる。

「ホンマに大人しゅうなりましたね。」

光は甘い吐息を洩らした私を見てニヤリと笑い、自分の濡れた唇を手の甲で乱暴に拭った。

「うるさいよ。」

「なまえさんのそういう可愛いげのないところ、可愛えですよ。」

さっき私が言ったのと同じような言葉を返された。

「ここまでのは頼んでないんだけど。」

赤くなった顔では迫力がないのは分かっていたけど、私は目の前の光を睨んだ。

「せやったら、今度からはどうして欲しいのかちゃんと言うてくださいよ。」

意地の悪い顔をした光は私の引き結んだ唇を指先でなぞる。

「嫌。言わない。」

一方的に翻弄されているのが悔しくて、私はそっぽを向いた。

私のことが分かっているのに無理なことを言う光は意地悪だ。

素直に甘えられない性格なのは光も私も同じなのに。

「ホンマ可愛えですわ。」

両手で頬を挟まれて抵抗したけど、簡単に光のほうを向かされてしまう。

そして、再び口を塞がれたから私は何も言い返すことが出来なかった。



早くキスして

(2012.05.26)

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