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後輩/ヒロイン視点


屈託なく笑う芥川先輩は、おひさまみたいだなと思う。

自分はあんなに自由に振る舞えないから、心のままに振る舞う無邪気な姿がすごくまぶしい。

最初の出会いでびっくりして、その後は意外に強引な芥川先輩に私は振り回されていた。

でも、ほがらかな芥川先輩のそばにいることがいつの間にか心地良いと思うようになっていた。


● ● ●


土曜日、私はドキドキしながらテニスコートへとやって来た。

観客席にはすでに多くの女の子たちが集まっていて、どうしても気おくれしてしまう。

少し離れて立っていると、急に黄色い歓声が上がってびっくりした。

ギャラリーの女の子たちの視線を追えば、テニス部の人たちがコートに入ってくるのが見えた。

その中にいる芥川先輩と目が合う。

「なまえちゃーん! 俺のこと見ててねー!」

満面の笑顔でぶんぶんと手を振る芥川先輩。

周りの視線が自分に集まって恥ずかしくて仕方なかったけれど、頑張って手を振り返した。

そしたら芥川先輩はすごく嬉しそうに笑ったから、なんだか自分も嬉しくなった。



練習試合は氷帝の優勢で進んでいた。

だからなのか、それとも最初から決まっていたのか、試合をしているのは準レギュラーの人達だ(と周りの子が言っていた)。

ふと、芥川先輩が部長さんに詰め寄っているのが見えた。

もめているのだろうかと心配になって見ていると、部長さんはなんだか諦めたように額に手をやって頭を振った。

そして、やっている試合が終わると、芥川先輩は真っ先にコートへと走った。

どうやら次が出番らしい。

「なまえ、こっち来て。」

テニスコートを見ていたら、テニス部のマネージャーをしている友達に声をかけられた。

友達に手を引かれた私は、部長である跡部先輩がいるコート脇のベンチまで連れて来られた。

言われるままその隣に座ると、トゲのある視線がギャラリーから向けられるのを感じた。

生きた心地がしなくて、うつむいて地面に視線を落とす。

「おい、ちゃんと見ててやれ。」

「跡部ー! なまえちゃんをいじめんなよー!」

言葉をかけられて隣の跡部先輩を見た途端、芥川先輩の声が飛んできた。

「苛めてねぇよ! お前は試合に集中してろ!」

「わかってるって! なまえちゃん、しっかり見ててねー!」

その無邪気な笑顔を見たら、沈みそうだった気持ちが軽くなって、なんだか安心した。

試合が始まる前から芥川先輩は楽しそうにしていて、でも試合が始まるともっと楽しそうで生き生きしていた。

芥川先輩がキラキラして見えて、やっぱりおひさまみたいだなと思った。

その姿を見ていたら、いつの間にか周りの視線は気にならなくなっていた。



「今日はありがと、なまえちゃん。」

練習試合が終わり、誰もいなくなったコート脇のベンチに私たちは並んで座っていた。

「いえ……あの、楽しかったです。先輩の試合、見てるの。」

「ほんと!? うれCな〜 ……あっ、そう言えば、教えるって約束だったよね。」

「…はい。」

「あのね……俺ね、キミの…ことが……ことが、ね…」

話しながら、芥川先輩の目蓋は眠そうに下がってきていて、

「…なまえちゃんが……好き、なんだ…だから……だから、ね…」

私のほうに倒れ込んできて、そのまま眠ってしまった。

きっと試合で疲れたのだろう、芥川先輩は私の肩にもたれながら寝息を立てている。

芥川先輩を押し退けるわけにもいかなくて、私は真っ赤になって固まっているしか出来ない。

(私も、ちゃんと言わないとだめだよね。)

うまく言えるかは分からない。

だけど、芥川先輩が目を覚ましたら、頑張って自分の気持ちを伝えよう。



あなたに会える幸せ

(2012.04.30)

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