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後輩/芥川視点


なんだかすごく良い夢を見ていた気がして目を覚ましたら、目の前には知らない女の子の顔があった。

なんでかわからないけど俺が抱きしめていたその子の身体は柔らかくて温かくて、抱き心地が良い。

甘くて良い匂いがしてて離したくなくてぎゅうってしたら、その子おっきな目が涙で潤んでキラキラして、すごく可愛かった。

この子がいつも一緒に寝てくれたらいいな〜って思って誰なのか名前を聞いけれど、その子は真っ赤な顔をして逃げてしまった。

その子のことが忘れられないでいたら、テニスコートのギャラリーの中にいるのを見つけた。

すごく嬉しくてその子に声をかけたら、すぐにいなくなってしまった。

「跡部ー、おめぇが怒鳴るから、あの子が逃げちゃったじゃんか。」

コートに戻って、腕組みをして待ち構えている跡部に口をとがらせて文句を言う。

「アーン? 俺の所為じゃないだろ、あれは。」

「あの子、恥ずかしがり屋さんみたいやったからなぁ。」

「忍足、サボってんじゃねぇよ。」

「もう休憩時間やって。それより、あの子、顔真っ赤やったし恥ずかしくて逃げただけやと思うで?」

「どのみち、あの様子じゃ、二度とここには来ねぇだろうな。」

「えー!? そんなの嫌だC―!」


● ● ●


昼休みに彼女の教室に向かっていると、彼女は友達の何人かと廊下を歩いていた。

「なまえちゃん! 迎えに来たよっ!」

駆け寄っていき、彼女に声をかける。

「芥川先輩……あの、ええっと……今日は…」

口ごもる彼女の背中をテニス部のマネをやっている子が押す。

「いってらっしゃい、なまえ。」

「ま、待ってよ…っ」

「バイバーイ。」

「頑張ってー」

彼女の友達数人は笑って手を振りながらいなくなった。

「俺達も行こっか。」

戸惑っている彼女の手を取って歩き出すと、素直について来てくれた。



心配していたけれど、彼女は俺のことは嫌ってはいなかったみたいで、会いに行けば相手をしてくれる。

だから、昼休みには彼女のところに行って、一緒にご飯を食べるようになっていた。

話をするのはほとんど俺だけど、彼女はちゃんと俺の話を聞いて言葉を返してくれる。

「キミって優しいよね。」

「えっ……ふ、ふつうだと思います、けど…」

恥ずかしがり屋の彼女はちょっとしたことですぐに赤くなっちゃうけど、それが可愛いと思う。

「あ、そうだ。今度の土曜に練習試合があるんだけど、俺、キミに応援に来て欲しいんだよね。」

「応援、ですか?」

「うん。キミが見てくれてたら、俺、すげー頑張れるから。」

「それは……どうして、ですか?」

「それはね〜、キミが応援に来てくれたら教えてあげる。」

うつむいて黙ってしまった彼女の顔を覗き込む。

「だめ? 来てくんない?」

「……行きます。」

「やった! ありがと、なまえちゃん!」

俺はすごく嬉しくて、顔を上げた彼女の手を握った。

「俺、絶対に勝つから楽しみにしてて!」


(2012.04.29)

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