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幼馴染/ヒロイン視点


ぬくぬくとコタツで温まっていると、全く動きたくなくなるのが困りものだと思う。

まあ、動きたくないなら他人を使えばいいだけのことだ。

「赤也ー、のど乾いた。」

「だから?」

「なんか飲み物持ってきて。」

「自分で取りに行けよ。」

「私、お客だもーん。もてなして。」

「なーに言ってんだ。いっつも我が物顔でうちに出入りしてるクセによ。」

コタツの向こう側に座っている赤也は携帯ゲーム機の画面から目を離さないままで、私の要求は通りそうにない。

「ちっ…(使えないヤツめ)」

「舌打ちすんな。」

言葉だけは返してくる赤也にベーッと舌を出したけど、全く気づかない。

今年のクリスマスに“サンタさんにもらった”新しいゲームソフトがよっぽど面白いらしい。

「仕方ない、みかんで水分補給の代わりにするか。」

意地でも動きたくない私はコタツのテーブルの上に無造作に置かれているみかんの一つを手に取った。

橙色の皮をむけば、甘酸っぱい香りが部屋に広がっていく。

ヘタのほうから皮をむいたみかんをひとふさ摘み、白い筋をちまちま取っていく。

白い筋に栄養があるらしいけど、そんなのは知ったこっちゃない。

食べた時に口の中に残るのが嫌なのだ。

「赤也、口開けて。」

白い筋を取り終わったみかんを持った手を赤也のほうに伸ばす。

「ん? …ああ。」

素直に口を開けた赤也の口の中にみかんを放り込む。

「おいしい?」

「ああ、けっこう甘いぜ。」

「やった。当たりだ。」

「俺に毒見させたのかよ。」

「そうだよ。酸っぱいのやだもん。」

非難がましい赤也の視線は無視して、また白い筋を取っていく。

「ったく、お前は。……あ、日付変わるとこだぜ。」

赤也の言葉に、つけっぱなしになっていたテレビの画面へと目を向ける。

なんの番組か分からないけど、司会者らしき人が観客とカウントダウンをしている。

『ゼロ』という声と共に、画面の中の夜空にきらびやかな花火が上がる。

「あっけない年越しだね。」

「まあ、そんなもんだろ。いきなり何か変わるワケじゃねーし。」

「そうだね。……ねぇ、赤也。」

「なに?」

「今年もよろしくね。」

「ああ、今年もよろしくされてやるよ。」

「上から目線か。…いいけどさ。」

なんだかゆるゆるな新年のあいさつだなと思うけど、別に不満はない。

きれいに白い筋を取り終わったみかんを口に入れると、みずみずしい甘みが口の中に広がった。

「んで、今年も神社に行くのか?」

「うん、おみくじ引きに行かないと。」

元旦は近所にある小さな神社に行くのが毎年の恒例行事になっているのだ。

「初詣が目的じゃねーのかよ。」

「いいじゃん、別に。赤也だって、おみくじやるでしょ?」

「そりゃ、ついでだし。つか、そろそろ帰らねーの? お前、夜弱ぇのに。」

「みかん食べ終わったらね。」

「あっそ。」

素っ気なく言うと、赤也はまたゲームをやり出した。

私は黙々とみかんを食べながら、赤也とはいつまでもこんな感じなんだろうなと思っていた。



変わらない友情

(2011.12.31)

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