※少し暗め
同学年/ヒロイン視点
「何で俺のことを避けるんじゃ?」
誰もいない廊下の突き当りまで移動すると、仁王は掴んでいた私の腕を離して口を開いた。
「別に避けてないよ。気のせいでしょ。」
「何が『気のせい』じゃ。明らかに避けてたじゃろ。」
仁王の目が鋭さを増し、思わず後ずさると、背中が後ろの壁に当たった。
「だったら何? 仁王に私を責める権利なんてない。」
私は必死の思いで仁王を睨み返した。
「知っていて知らないフリをするのは楽しい? 人の気持ちを弄ぶのはそんなに気分が良いの?」
「何を言っちょる?」
私の言葉に、仁王は僅かに眉を上げて、驚いているようだった。
「私の気持ちを知っていて、気付かないフリをしてたでしょ? その気もないのに思わせぶりな態度を取って…それって、そんなに楽しい?」
「…ああ、楽しかったぜよ。」
口の片端だけを吊り上げて嗤う仁王が少し怖いと思ったけれど、それ以上に私は悲しかった。
「酷いよ、仁王。」
「好きなんよ。」
「人の気持ちを弄ぶのが?」
目に溜まった涙で視界が滲むけれど、最後の強がりで仁王を見据えた。
「いいや、お前さんを見ちょるのが好きだったんじゃよ。俺のことでいっぱいな、俺のことしか考えとらん、そんなお前さんを…」
「あ、悪趣味…っ」
「そうかもしれんのぅ。それと、俺の為の泣き顔もそそるから好きじゃよ。」
全く悪びれた様子も無く、仁王は口元を歪めて嗤う。
「もっ、…何なのっ……意味、分からない…っ」
仁王は壁に両手をついて私の逃げ場を奪い、上から私を見下ろした。
「察しが悪いのぅ。俺、お前さんに告白しとるんじゃけど。」
「なっ……ど、どこが…っ」
全く理解できない、自分の目の前にいるこの人のことが、少しも。
「全部じゃよ。…分からんか?」
仁王は愉悦の色が浮かんだ表情で私を覗き込んでくる。
私はまるで魅入られたように、仁王の昏い光を宿した双眸から目を逸らすことが出来ない。
「俺が怖いか?」
「っ、……嫌…」
冷たい指先に涙で濡れた頬を撫でられて身体をびくりと震わせると、夜の闇に浮かぶ月を思わせる金色の目が細められた。
「逃がしてなんてやらんぜよ。」
歪に嗤う仁王が怖いと思うけれど、身体が動かない。
それは竦んでいるからなのか。
それとも、私に逃げる意志が無いからなのか。
「好いとうよ、なまえ…」
心が定まらない私に仁王が唇を重ねる。
「っ、……」
反射的に目を閉じると、涙が一筋流れた。
その涙の意味が分からないまま、繰り返し与えられる口付けを私はただ受け入れていた。
屈折した魅力
(2011.12.17)
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