同学年/ヒロイン視点
「聞こえなかった? 俺、君のことが好きだって言ったんだけど。」
目の前でニッコリと笑う幸村は突然なにを言い出すのだろう。
「ああ、でも“好きになっていたことに気付いた”の方が正しいかな。」
幸村が言っている言葉の意味は分かっているのだけれど、状況に頭がついていかない。
だって、廊下で会って朝の挨拶した後にいきなり告白されるなんて。
「じゃあ、そういうことだから。またね、みょうじ。」
幸村は反応できないでいる私を気にした様子もなく、歩いて行ってしまった。
「……私にどうしろと?」
● ● ●私は屋上の花壇のそばにあるベンチに座り、幸村と一緒にお昼ごはんを食べていた。
あれ以来、幸村が毎日のようにお昼休みになると誘いに来るのだ。
(やっぱり断れば良かった…)
押しに弱い自分を情けなく思いながら、膝の上に置いたお弁当箱から口に箸を運ぶ。
「今日のお弁当はみょうじが作ったの?」
「そうだけど……なんで分かったの?」
「卵焼きが少し焦げているからね。」
クスリと笑って指摘する幸村は意地が悪いと思う。
そんな幸村のお弁当箱の中身を横目に見れば、明らかに手の込んだ手作りのおかずが綺麗に詰められていた。
「砂糖が多めだから仕方ないの。」
いまいち残念な彩りの自分のお弁当を見て何とも言えない気持ちになりながら、私は甘い卵焼きを口に入れた。
……うん、今日はさすがに砂糖を入れ過ぎてしまった。
「ねぇ、その甘い卵焼きちょうだい?」
「自分のお弁当に玉子焼きあるでしょ。」
「いいじゃないか、交換しようよ。」
「ダメ。」
「もしかして…砂糖と塩を間違えた、とか?」
「そんなベタなミスはしません。甘過ぎるから代わりにこっちをあげる。」
私はアスパラのベーコン巻きを幸村のお弁箱の空いているスペースに置いた。
「ありがとう。」
「…どういたしまして。」
幸村があからさまに嬉しそうな顔をするから、私はなんだか照れてしまって、ふいっと顔を背けた。
居心地が悪くて仕方ない。
別に、幸村のことは嫌いじゃない。
ただ、どうしていいのか分からないから困るのだ。
告白なんてされたのは生まれて初めてで、恋愛経験が豊富じゃない私が幸村を意識しないでいられるはずがない。
「みょうじ。」
「……なに? …んぐっ!」
少しぎこちなく幸村のほうを向いたら、いきなり口になにかを放り込まれた。
びっくりしながらも、もぐもぐと口の中のものを味わう。
……すごい、ふわっふわっしていて上品な味付けの卵焼きだ。
料理上手なお母さんなんだなぁ、と羨ましく思う。
私のお母さんは料理が下手なわけじゃないけれど、完全にレベルが違う。
「どう? 美味しい?」
「…おいしいけど、いきなり口に突っ込んでくるのはどうかと。」
「ごめんごめん。次はちゃんと食べさせてあげるよ。」
「いや、いらないから。」
ばっさりと切り捨てて、サケのふりかけがかかっているご飯を口に運ぶ。
「残念。餌付けしようと思ったのに。」
ニコニコと楽しそうに笑う幸村はどこまで本気なのか全く読めない。
(完全に振り回されているよね、私。)
ため息をつきながら、冷凍食品のシューマイに箸を伸ばす。
「あのさ、本当に嫌だったら、そう言ってくれていいんだよ。」
「……嫌、ではないけど…」
幸村のほうを見ないまま小さく答える。
「そっか。じゃあ、これからも遠慮はしないから。」
しまった!と思って隣を見れば、幸村は強気な表情で口許に笑みを浮かべていた。
なぜか心臓が強く音を立てたけれど、私は必死でそれに気付かないフリをした。
心の扉をたたく
(2011.11.06)
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