恋人(後輩)/ヒロイン視点
どうしようもなく淋しくなってしまう。
会えないのは数日。
たったそれだけなのに。
「……はぁ…」
携帯の画面を閉じてため息をつく。
先輩が旅立ったのは昨日で、まだ1日しか経っていない。
それなのに、こんなに淋しくなるのは距離に隔てられているせいだろうか。
会いたいと思っても、すぐには会えないと分かっているからだろうか。
先輩は忙しい人だし学年が違うから、学校でも会えない日はあるというのに。
今年の修学旅行先はイギリスで、日本との時差は9時間だ。
「まだサマータイムだから…8時間なんだっけ?」
どのみち、あちらはまだ昼間だから、今は見学先を回っているのだろう。
「もう寝ようかな。」
● ● ●「………んー…?」
手に握ったままだった携帯が軽快なメロディーを鳴らしながら震えている。
ぼんやりしたまま画面を開き、そこに表示されている名前を見て、私は飛び起きた。
「もしもし!?」
「俺様を待たせるんじゃねぇよ、なまえ。」
聞きたいと思っていた先輩の声が鼓膜を震わせる。
「ごめんなさい! 寝ていましたっ」
「何時に寝てんだよ、お子様だな。」
「うっ……あれ? 電話してくれていたんですか?」
部屋の時計を見ればもう朝の7時で、あのまま本当に眠ってしまっていたらしい。
「どっかの淋しがり屋が泣いてるんじゃねぇかと思ってな。」
「先輩…ありがとうございます。……あの、そちらは夜中ですよね? 眠いんですか?」
いつもより先輩の声が甘い…ような気がする。
「余計な心配してんじゃねぇよ。俺は誰かみたいにお子様じゃねぇからな。」
さっきから子ども扱いされてしまっている。
「そう、ですか。…あの、そちらはどうですか? 懐かしい、ですよね?」
「まあ、多少はな。」
「…………」
「どうした?」
「その……私も景吾先輩と同じ歳なら良かったなぁ、って思って…」
こればかりは言っても仕方のない事なのだけれど。
「遅く生まれたお前が悪い。」
「えぇっ?! そんなこと言うなら、先に生まれた先輩が悪いです!」
どうにもならない事なのに、そんなふうに言われて、つい言い返してしまう。
「ほぉ、言うじゃねぇか。」
「だって…」
「拗ねるなよ。」
「…別に、拗ねてないです。」
いつだって先輩は余裕で、私はなんだか悔しくなってしまう。
張り合っている訳じゃないのに。
「嘘吐け。声が不機嫌だぜ?」
からかうような先輩の声は、やっぱりいつもより少し甘く感じる。
「帰ってきたら……一番に会いに来てくるなら、許します。」
怒ってなんていないのに、可愛くない事を言ってしまう。
「バーカ。そんなの当たり前だろ。」
「…はい。」
「じゃあ、また電話する。…ちゃんと良い子にしてな。」
最後に、先輩は軽くリップ音を立てて電話を切った。
握っていた携帯が手から滑り落ちる。
ぼふん、とベッドに倒れ込んだ私は、しばらく動けそうになかった。
あなたの声が聞きたくて
(2011.10.10)
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『ペアプリ Vol.1』によれば、修学旅行は2年生の時にドイツへ行っているんですね。掲載後に気付きました…。