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同学年/忍足視点


話題の恋愛映画を見終わって駅前を歩いていると、彼女の姿が目に飛び込んできて、俺は足を止めた。

誰かと待ち合わせをしているのか、彼女は辺りをきょろきょろと見回した後、今度は携帯の画面を確認している。

彼女はフリルのついた可愛らしいデザインだが落ち着いたチョコレート色のワンピースを着ており、普段はストレートの髪がふんわりと緩く巻かれていた。

学校では見ることの無い彼女の姿に胸が高鳴る。

俺は表情を直してから、彼女に近付いた。

「みょうじさん、奇遇やな。」

「えっ…あ、忍足くん。こ、こんにちは。」

携帯の画面を見ていた彼女は顔を上げ、俺の姿を確認して驚いたらしく、大きな目を見開いた。

「こんにちは。こんな所におるってことは、誰かと待ち合わせなん?」

「うん。友達と遊びに行く約束をしてたんだけどね、急に来られなくなったんだって…」

苦笑いを浮かべる彼女を見ながら、俺は突然舞い込んできたチャンスに感謝した。

「そら残念やなぁ。せや、ヒマになったんなら一緒にどっか行かへん?」

「! うん、行きたい…っ」

彼女が思いのほか嬉しそうに返事をしてきて、淡い期待を抱いてしまう。

「ほな、決まりやな。みょうじさんはどこか行きたいトコってあるん? どこでも付き合うで。」

結論を出すのはまだ早いと自分に言い聞かせ、俺は彼女に柔らかく微笑みかけた。



友達と行く予定だったという雑貨屋などに付き合い、途中でお茶をした後、俺は彼女を公園に誘った。

紅葉した木々の葉が時折吹く風に吹かれて舞い落ちる夕暮れの公園は、なかなか雰囲気があると思う。

「今日はありがとう。すごく楽しかった。」

空いていたベンチに座ると、彼女は少し照れた様子で俺を見て微笑みを浮かべた。

「俺も楽しかったで。自分と一緒やったからな。」

「っ……忍足、くん?」

ベンチの上にある彼女の手に自分の手をそっと重ねると、彼女はびくりと身体を震わせて頬に紅葉を散らした。

「どうしたん? 顔紅いで?」

「だ、だって…」

「アカンやん。そないに可愛え顔したら…」

手を振り払うこともしない彼女の反応を、自分の良いようにしか解釈できない。

顔を背けようとした彼女の頬に手を添えると、彼女が息を飲んだ。

「期待してまうやろ。」

「お、忍足くん…?」

俺は重ねているだけだった彼女の手を上からきゅっと握った。

「俺、みょうじさんのことが好きやねん。せやから、俺と付き合うて欲しい。」

「…っ、……うん。」

彼女は顔を赤く染めながら、何度も頷いてくれた。

それから俺を見て、彼女は紅いままの顔でゆっくりと微笑んだ。

「私も…忍足くんが好きです。」

「っ…反則やん。」

不意打ちをくらって、俺は彼女の肩口に熱くなった顔を埋めた。

「えっ、な、なにが…っ?」

「いや、何でもないわ。……ほんまに好きやで。」

耳元で囁き、俺は彼女の背中に腕を回して華奢な身体を抱き締めた。



好意を期待します

(2011.10.08)

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