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恋人(同学年)/切原視点


今日も厳しい練習が終わり、校門まで急いで走っていく。

一秒でも早く彼女に会いたくて。

昼休みにも会ってるけど、あんなちょっとで足りるワケない。

校門の所に立っていた彼女は俺が声をかける前に顔を上げた。

「赤也! お疲れさま。」

俺の顔を見て笑顔になった彼女に、疲れがぜんぶ吹っ飛ぶ気がした。

「おう、疲れたぜ〜」

走ってきた勢いのまま、可愛い恋人に抱きつく。

「え、ちょ…わぁっ!」

彼女の小さい身体をギュウッと抱き締めて、その存在を感じる。

「やっぱいいなー」

癒されるというか、栄養補給みたいなものだ。

「な、なにが?」

「なまえが。柔らかいし、良い匂いするし。」

「っ、…放せ、ヘンタイ!」

ジタバタと暴れる彼女だけど、たいした抵抗になってない。

「自分の彼氏にヘンタイとか、なくね?」

「だって、赤也が悪いんじゃん。変なこと言うから…っ」

バシバシと背中を叩かれて、さすがにちょっと痛い。

「別にいいじゃん。お前に触りてぇとか思ったってよ。」

「だから、そういうのが…っ」

「はいはい、分かりましたー」

名残惜しいけど、こんなトコでいつまでもこうしているワケにもいかない。

「んじゃ、帰ろうぜ。」

「……うん。」

彼女の手を取って歩き出せば、素直に俺の手を握り返してくる。

愛されるなー、って思う。

「なに笑ってるの?」

「べっつにー」

「ふーん…」

「なあ、来週の日曜どっか行かねぇ?」

「部活ないの?」

パッと嬉しそうな顔になる彼女がホントに可愛い。

「ああ。だから、どっか遊びに行こうぜ。行き先、考えとけよ。」

「うん! …ねぇ、私の好きな所でいいの?」

「めったにデートしてやれねーし、まあ、そんくらいは…」

なんとなく、人差し指で頬をかきながら答える。

「赤也…ありがと!」

「うわ、なまえっ?!」

いきなり腕に抱きついてきた彼女に、ちょっとびっくりする。

「行く場所は一緒に考えよう? 私だけ楽しくても嫌だもん。」

「あー、うん、そうだな。」

「どこがいいかなぁ……あ、なにか雑誌でも買う?」

「……あのさ、なまえ。」

「ん、なに?」

「……いや、なんでもねーや。」

「? 変な赤也。」

少し迷ったけど、彼女のささやかな胸が腕に当たっていることは黙っておくことにした。



幸福な日々

(2011.09.20)

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