同学年/ヒロイン視点
学校の花壇の世話は美化委員がやることになっていて、今週の水やり当番である私はいつもより早く登校していた。
ホースの先の散水ノズルから出るシャワー状になった水が花壇の植物に降り注ぐ。
花や葉についた水滴が太陽の光を反射してキラキラと輝いているのは綺麗で、早起きも悪くないかなと思う。
(そろそろ終わりかな。)
水道の蛇口を閉めようと歩き出した時、なんとなく人の気配を感じて周りを見渡すと、辛子色のユニフォームを来た仁王くんがいた。
朝練を終えた後なのだろう、仁王くんは疲れ切った表情をしており、心なしか銀色のしっぽ―結んである後ろ髪―も元気がないように見えた。
「あの…大丈夫?」
「その水かけてくれ。暑くて死にそうじゃ。」
「え、でも…」
「制服に着替えるから構わん。思いきりやってくれ。」
「…ほんとにいいの?」
もう言葉を発する気力もないのか、仁王くんは力なく頷いた。
「じゃあ……いくよ。」
さすがに思い切り水をかけるのは躊躇われて、私は手を上に伸ばして散水ノズルを空に向けた。
「あー、生き返るナリ。」
細かい水を浴びながら、仁王くんは目を閉じて微動だにしない。
あっという間にユニフォームは水でびしょ濡れになり、足元には小さな水溜りができ始めている。
(どうしよう。目のやり場に困る。)
銀色の髪は額や頬に張り付き、ぴったりと張り付いたユニフォームが無駄のない身体の線を露わにさせている。
屋外での部活動なのに日に焼けていない白い肌を滴る水が伝っていくのが、酷く――
(この色気は何…っ?!)
私は自分の頬が熱を持つのを自覚して、仁王くんから視線を外した。
「みょうじ、もういいぜよ。ありがとさん。」
「…う、うん。どういたしま…」
声をかけられて反射的に仁王くんへ視線を戻したのがいけなかった。
私の目に飛び込んできたのは仁王くんの上半身が裸の姿で、陽の光に晒された細身ながらも引き締まった身体は私の目には眩し過ぎる。
「見過ぎじゃろ。」
脱いだユニフォームをぎゅうっと絞りながら、仁王くんはニヤリと口許を歪めた。
「えっち。」
「!!」
耳まで真っ赤になった私はホースを投げ捨てて、その場から走り去った。
(もう明日から顔が見られないよ…っ)
誘惑されます
(2011.08.15)
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