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同級生/ヒロイン視点


「みょうじ、こんな時間まで残っていたのか?」

「真田くん……お疲れさま。」

校門に向かう途中で同じクラスの真田くんに行き会った。

「なぜ遅くまで残っているのだ。」

ラケットバッグを肩にかけた真田くんは険しい顔をしていて、普段よりも眉間の皺が深くなっている。

「ちょっと友達の相談に乗ってて、ね。」

「そうか。…友人も大事だが、このように遅くまで残っているのは感心せんな。」

「そうだね、ごめん。」

風紀委員長に言われたら素直に謝るしかない。

守っていない生徒が大半だけど、放課後は用事がない限り速やかに帰ることになっているから。

「うむ。分かってくれれば良い。」

眉間の皺が少しだけ直ったけれど、真田くんはまだしかつめらしい顔をしている。

「ところで、どうして私にだけ声をかけたの?」

さっきから私達の近くを通り過ぎて校門に歩いていく生徒がいるのに。

他の生徒は私と違って部活終わりなのかもしれないけれど。

「たまたま、お前の姿が最初に視界に入ってきたからだ。」

少し考える素振りをしてから真田くんは答えたけれど、なぜか難しい顔をしている。

「今日だけではなく、最近やたらとお前の姿が目に付くのだ。理由はよく分からないのだがな。」

「そう、なんだ。」

「ああ。不思議なものだ。」

何か目を付けられるようなことをしただろうかと考えるけれど、心当たりはない。

授業は真面目…とまでは言わないけれど普通に受けているし、だらしない服装もしていない。

他に何かあるだろうか。

「みょうじ、家まで送って行こう。」

「えっ? いいよ、大丈夫。」

考え込んでいた私は真田くんの言葉に驚きながらも申し出を断った。

ただのクラスメイトにそこまでしてもらう理由はない。

心配してくれたらしい気持ちはありがたいけれど。

「暗い道を一人で帰す訳にはいくまい。何が起こらないとも限らん。」

「本当に大丈夫だよ。なるべく人通りの多い道を行くし。」

「遠慮ならば無用だ。」

「遠慮というか……そもそも真田くんは部活で疲れてるでしょ? 私に構わないで早く帰ったほうがいいんじゃない?」

なぜか引いてくれない真田くんに困惑してしまう。

一体どうしたのだろうか。

「俺はそんなに柔には出来ておらん。」

「ええと、でも…」

「こうしていても仕方あるまい。完全に暗くなる前に送っていく。」

「……じゃあ、その……よろしくお願いします。」

真田くんに引いてくれる様子がなくて、根負けした私は小さく頭をさげた。

さっきよりも辺りが暗くなってきているし、ずっと押し問答していても仕方ないという真田くんの言い分はもっともだ。

「うむ。」

どこか満足そうに頷いた真田くんに首を傾げつつ、その隣を歩く。

どうしてこんなことになったのか分からないけれど、なんだか申し訳ないに気持ちになる。

「ごめんね、迷惑かけちゃって。」

「気にするな。俺がそうしたいと思ったからしているだけだ。」

「…ありがとう。真田くんは意外と優しいんだね。」

「っ、…別に。」

言ってしまってから『意外と』は失礼だったかなと、隣の真田くんを盗み見る。

だけど、なぜか真田くんは急に帽子を深く被り直して、表情は確認できなかった。



淡い想い

(2011.06.08)

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