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後輩/ヒロイン視点


誰にも言わないで校舎裏に来たことを、私は後悔していた。

「付き合ってるヤツはいないんだろ? だったら、俺でもいいだろうが!」

知らない男の子に両肩を掴まれて迫られる。

「い、いえっ…そういう訳には……痛っ」

掴まれた肩に指が食い込んできて、私は顔を歪めた。

「大人しそうな顔して強情なヤツだな!」

「きゃっ…!」

乱暴に突き放されて転んでしまった。

「てめぇ! そこで何してやがる!」

突然した声の方を見れば、跡部先輩が私たちのほうに近付いてきていた。

その双眸には、今までに見たことがない程に強い怒りの感情が宿っていて、私は息を飲んだ。

「お前には関係な…」

「あるんだよ! こいつに気安く触れた上にこんな真似しやがって……ただじゃ済まさねぇ。」

先輩の気迫に圧されたのだろう、その人は逃げるように去っていった。

「大丈夫か?」

「は、はい。ありがとうございます。」

差し伸べられた手を取って立ち上がる。

「っ! ケガしてるじゃねぇか!」

焦ったように言われて自分の足に視線を移せば、確かに膝を少しだけ擦りむいていた。

「このくらい平気で…ええっ!?」

先輩が急に屈んだと思ったら、軽々と抱き上げられた。

「ま、待ってください! 大丈夫ですから下ろしてください!?」

「却下だ。大人しくしてろ。」



結局、あのまま保健室まで運ばれ、手当てまでしてもらってしまった。

「ありがとうございました、跡部先輩。」

「気にするな。元々、俺の不手際だ。」

「あの……どうしてそうなるんですか?」

さっきのことは先輩には関係がないはずなのに、なぜか悔しそうに顔を歪めていた。

「お前を守ってやれなかった。悪かったな。」

長椅子に座る私の前に膝を折った先輩は私の手を握ると、申し訳なさそうに言った。

「そんな…っ 責任なんて感じないで下さい! いくら跡部先輩でも後輩全員の面倒は見れないじゃないですか…っ」

「いや、ちょっと待て。そういう事じゃないだろうが。」

「はい?」

何か間違っただろうか。

「全く……鈍いにも程があるな。俺は何とも思っていない相手にここまでしたりしねぇ。」

私を見る先輩の瞳の色が濃くなった、ような気がする。

「俺は、お前が好きなんだよ。」

「…………ええっ!?」

「本当に気付いてなかったのかよ。随分と分かり易くしていた筈だがな。」

心底驚いた私を見て、先輩は呆れたように溜息を吐いた。

「だ、だって、……そんな…」

全然、思ってもいなかった。

「返事はまだいいぜ。…いずれ、お前は俺を選ぶからな。」

自信に満ちた笑みを浮かべる先輩に、何故か鼓動が速くなる。

「だが、あまり俺様を待たせないほうが身の為だぜ?」

先輩は立ち上がる途中に私の耳元でそう囁くと、さっと身を翻して保健室を出て行った。

「す、すでに心臓が持ちませんって…」

熱くなった頬は簡単に冷めそうにない。



鮮やかな場面

(2011.05.21)

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