short


恋人(後輩)/ヒロイン視点


「ほら、見せんしゃい。」

救急箱を手に持った先輩が私をベッドの端に座らせる。

「そんなに血は出てないな。傷口は洗ったんか?」

私の足元にしゃがんで膝の裏に手を添えて傷を見る先輩の姿に、すごく落ち着かない。

「ま、まだです。放っておいても大丈夫だと思っていたので…」

教室でイスの角に勢いよく膝をぶつけて少し血が出たけで、本当に大したことない傷なのだ。

だけど、廊下で会った先輩はこのケガに真っ先に気付いて、私を保健室まで強制的に連れて来た。

「全く…傷が残ったらどうするんじゃ。」

あきれたような声よりも、足に触れられていることのほうが気になってしまう。

「あの、本当に大丈夫ですから…っ」

「ほお……なら、舐めときゃ治るかのぅ?」

顔を上げた先輩が目を細めて私を見る。

「はい?」

私が首を傾げた次の瞬間、傷口に何か濡れたものが触れた。

「まっ、ままま雅治先輩!?」

「消毒中じゃき、大人しくしときんしゃい。」

ガッシリと足を押さえられていて、先輩を押し退けることも立ち上がることも出来ない。

見ていられなくて顔を背けるけど、肌を這う舌の感触はどうにもならない。

わけの分からない感覚が背中を走り抜けて、身体が震える。

上がりそうになる声を必死に抑えていると、ようやく濡れた感触が離れた。

それに安堵して、私はぐったりとベッドに上半身を投げ出した。

「もぉ……なんで…」

ベッドに横たわった私の隣に先輩が腰掛ける。

「これで少しは懲りたかのぅ?」

「どうして私が悪いみたいになっているんですか。」

半目で先輩を睨んだけど、それは軽く受け流された。

「お前さんが、俺のものに傷を付けるからじゃよ。しかも、手当てしようとせんしな。」

「なっ、なんですか、それっ……やっ!」

先輩がまた足に触ってきたから、私は足をばたつかせて抵抗した。

「こら、暴れなさんな。今度は本当に手当てするけぇ。」

身体を起こして見れば、先輩は救急箱から消毒液と脱脂綿を取り出していた。



「これで終わりじゃ。」

先輩は消毒をし終えると、ちゃんと絆創膏も貼ってくれた。

「………………ありがとうございました。」

不満ながらもお礼を言う。

「ものっすごい間じゃな。」

「……だって…」

さっきは恥ずかしくて死ぬかと思ったのだから。

「それじゃ、行くぜよ。」

返事も聞かずに私の手を取って立ち上がらせると、先輩はそのまま私を引っぱって歩き出した。

私はむくれながらも付いて行く。

「素直じゃのぅ。」

笑いを含んだ声が面白くないけれど、私は繋いだ手を振り払えなかった。

いつも翻弄されてばかりだけど、先輩を嫌いになんてならないから。



永遠にあなたのもの

(2011.05.12)

- ナノ -