恋人(同学年)/宍戸視点
カーテンの隙間から射し込む太陽の光の眩しさに耐え切れず、重たい目蓋を開けた。
「…くそ……頭、痛ぇ…」
昨日の夕方から出た熱は下がっておらず、頭が鈍く痛み、身体が重い。
枕元の目覚まし時計を取って時刻を確認すると、もう10時だった。
「ホントなら、待ち合わせの時間か。」
おそらく風邪だから、彼女に伝染さないようにと、俺は今日のデートの予定をキャンセルしていた。
しきりに俺の心配をする彼女に見舞いには来るなと言い聞かせたが、今頃はどうしているのか。
「はぁ……カッコ悪ぃ。」
襲ってくる眠気に逆らえず、俺はすぐに意識を手放した。
「あっ…起こしちゃった? ごめんね。」
ぼんやりとした視界に映ったのは、ここにはいるはずのない彼女の姿だ。
「なまえ……何、してんだよ。」
「そんなの、心配だから様子を見に来たに決まってるじゃない。」
「…だよな。……悪ぃ。」
ばつが悪くて、彼女から視線を外す。
「この埋め合わせは今度するからよ。」
「…バカ。」
「は?」
「夏風邪を引くのバカなんだよ。というか、亮はテニスバカだもんね。」
「お前な…っ」
バカバカ言われて反論しようとすると、彼女は俺をキッと睨んできた。
「亮は分かってない! 私、デートがダメになったから怒ってるんじゃないよ。」
珍しく怒っている様子の彼女に驚いて言葉が引っ込んだ。
「亮は無理し過ぎだよ。だから、こうやって体調を崩すんだよ。いつも頑張ってる亮はすごいし、応援してるよ。でも、自分の身体はちゃんと大事にしてよ。」
俯いた彼女は膝の上に置いてある手をぎゅっと握り締めた。
「……私、何もしてあげられないんだから…っ」
彼女の声は震えていて、握り締めている手の上に透明な雫が落ちた。
「心配させて、ごめんな。」
手を伸ばして彼女の頬を濡らす涙を指先で拭う。
「本当に、気を付けてね?」
頬に触れている俺の手に彼女の手が重ねられる。
「…ああ、約束する。」
「うん。……ところで、おなか減ってない? 亮のお母さんが用意してたお粥があるから食べる?」
「そう言われると、朝は食ってねぇし腹減ったな。…つか、うちの母親は?」
「買い物に行くからって、お留守番を頼まれたの。…じゃあ、お粥温めて来るから待っててね。」
「また寝るから帰っていいぜ? 風邪、伝染るしよ。」
お粥を食べて薬を飲み、ベッドに横になった俺は傍らに座っている彼女に声をかけた。
「亮が眠ったら帰るよ。」
「けどよ…」
「あと少し、いいでしょ? それとも、私がいたら迷惑?」
そういう聞き方は卑怯だろと思いながらも、病気のせいで少し弱気になっているのか、俺は彼女の手を握った。
「ここにいてくれ。」
「っ…うん。」
嬉しそうに微笑んだ彼女が俺の手を握り返してくる。
「…あのよ、……」
彼女を見ないで口を開く。
「俺、お前がいるから頑張れるんだよ。だから、『自分は役に立たない』みたいなことは言うなよ。」
「……うん。…ありがとう。」
「お前が礼を言うことじゃねぇだろ。感謝してんのは俺のほうだ。いつも大して構ってやれねぇのに、そばにいてくれて…ありがとな。」
思っていることでも言葉にするのは何故か照れくさいが、今なら顔が赤くても熱のせいに出来るだろう。
「亮…っ!」
「うわっ!?」
いきなり抱き付いてきた彼女に焦って引き剥がそうとするが、彼女は離れるどころか逆に腕に力を込めてくる。
「ったく、マジで風邪うつっても知らねぇぞ。」
俺は溜息を吐きながら、彼女の背中に手を回した。
かけがえのない恋
(2011.05.05)
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3万打感謝企画のアンケートでのコメントを参考にさせて頂きました。
タイトルは、いくつかある9月29日の誕生花のひとつ【林檎(りんご)】の複数ある花言葉の中から選びました。