恋人/ヒロイン視点
「ねぇ、光くん。」
「何や?」
「そろそろ出かけよう?」
「嫌や。」
このやり取りをするのは何回目だろうか。
光くんはまだ出かける気になってくれないらしい。
家でまったり過ごすのも悪くはないのだけど、やっぱり予定通りに出かけたかったりする。
だけど、ベッドを背にして床に座った光くんは、私を足の間に閉じ込めたまま動く気配がない。
腰には光くんの両腕がしっかりと巻きついていて、くっついた背中からは光くんの体温を感じる。
(これはこれで良いんだけど、ね。)
二人きりだとベタベタ甘えてくる光くんは可愛いし、自分からベタベタしても怒られないから。
「ところで、なんで急に出かけるの止めるって言い出したの?」
いつものように家まで迎えに来てくれた光くんが急に予定を変えたのが不思議だった。
「そんなん……なまえが悪いんやろ。」
「私が…?」
「いつもより可愛過ぎるねん。そんなんで表に出たら要らんヤツらが寄ってきよるやろ。」
「……光くん、それは絶対にありえないよ。」
今日は久しぶりのデートだからと、服や髪型に力を入れてある。
でも、私は元が普通だ。
いくら頑張ったところで光くんが心配するようなことなんて何もないに決まっている。
実際、私は光くんみたいに手紙をもらったり告白に呼び出されたり…なんてことは一度もない。
「何言っとんねん。なまえより可愛いヤツなんていてへんわ。大体、なまえが他ん奴に見られるだけでも我慢出来んのに。」
言いながら、光くんはぎゅうぎゅうと私を強く抱き締める。
「ええと…他に可愛い子はいっぱいいるし、誰も私のことなんて気にしないと思うよ?」
だけど、光くんの目には恋愛フィルター的なもの(かなり厚そう)がかかっているらしく、いつも過剰な心配をされる。
好きな人に可愛いと言ってもらえるのは嬉しいけれど、これには少し困ってしまう。
「なまえは自分のことを分かってへんだけや。」
「わかってるから大丈夫だって言ってるのに。」
「とにかく、今日は出かけん。」
「えー、せっかく友達にスイーツがおいしいカフェ教えてもらったのに。…小倉白玉パフェがあるんだって。美味しそうでしょ?」
「別に食いたない。」
「私は光くんと一緒に出かけたいんだけどな…。」
顔が見えないのをいいことに、私はわざとしょんぼりした声を出してみた。
そうすると、ピクッと光くんの身体が反応した。
「今日の約束、すごく楽しみだったのに……光くんは違うんだ。」
それきり黙っていると、しばらくしてから光くんは深いため息を吐いた。
「連れてったる。」
「…いいの?」
「ホンマは気ぃ乗らへんけど、なまえは行きたいんやろ? なら、行くしかないやん。」
「ありがとう、光くん。」
後ろを振り返って笑顔を向けると、光くんは面白くなさそうな顔をしていた。
「光くん、大好き。」
ふてくされている光くんの頬に軽く唇を弾ませると、面白いくらい真っ赤になった。
「不意打ちとかズルイやろ。」
口元を隠して視線を逸らす光くんが可愛くて、私は思いっきり光くんに抱きついた。
君しか見えない
(2011.05.05)
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3万打感謝企画のアンケートでのコメントを参考にさせて頂きました。
タイトルは、いくつかある7月20日の誕生花のひとつ【ブーゲンビリア】の複数ある花言葉の中から選びました。