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先輩/マネージャー/ヒロイン視点


「なまえせんぱーい! 好きッス!」

「はいはい、分かったから早く着替えてくる。」

もはや日課のようになった赤也からの告白を軽く受け流し、部活の準備を続ける。

「ちゃんと聞いてくださいよー 俺、本気なんスから。」

「もたもたしてると真田に怒鳴られるよ?」

「うっ……分かりました!」

怖い副部長の名前を出せば、赤也は渋々といった感じで部室に向かっていった。

その後姿を見て、私は小さく溜息をついた。

「毎日大変じゃのぅ。」

「それ、本気で思ってないでしょ。」

声がしたほうに顔を向ければ、仁王がニヤニヤしながら私を見ていた。

「お前さん、まんざらでもじゃないんじゃろ?」

「は? ふつうに迷惑なんだけど。」

「いい加減、素直になったほうが良いと思うがな。」

いつの間に現れたのか、柳も会話に加わってきた。

「柳まで何言ってるんだか。」

「意地を張ったところで得などしないぞ。」

「聞こえない聞こえない。私は忙しいんだから、邪魔しないでよね。」


● ● ●


腕時計を確認すると、あと5分くらいで部活が始まる時間になっていたけれど、赤也の姿はない。

朝練に遅れてくることは時々あるけど、放課後の部活に遅れてくることはまずないのに(補習とかがある時を除いて)。

「赤也の奴、同じ2年の女子に呼び出されてたぜよ。」

「その相手って、2年の中で一番可愛いって評判らしいぜぃ?」

「だから、何? 私には全っ然、関係ないんだけど。」

嫌な笑い方をしながら私の顔を覗き込んでくる銀髪と赤髪を睨み付ける。

「二人共、その辺にしておけ。」

少し険しい声がすると、仁王と丸井はそそくさと私から離れていった。

「……柳。」

隣に並び、宥めるように私の頭をぽんぽんと撫でる柳に止めるように声音で訴える。

「先日も言ったが…」

「嫌なんだもん。なんか……流されたみたいで。」

ずっと好きだと言われて、いつの間にか自分も好きになっていたなんて、本当の自分の気持ちじゃない気がする。

赤也が真っ直ぐに向けてくれる想いと同じものを、私も返せる自信がない。

「きっかけは人それぞれだろう。その事に善し悪しは無い、と俺は思う。」

「……っ、…」

肯定してくれる柳の言葉に、涙腺が緩んでしまう。

「なまえ先輩!」

滲んできた涙を拭おうとした時、いきなり腕を掴まれて引っ張られ、ドンッと身体に衝撃を感じた。

「柳先輩、なにいじめてるんスか!」

視界が真っ暗だけど、頭の上から赤也の声がするということは、おそらく抱き締められているのだろう。

「ちょ、あか…」

「全く人聞きが悪いな。言っておくが、みょうじが泣きそうになっていたのはお前の所為だ、赤也。」

「え……俺、の?」

「いい加減、限界だそうだ。」

「っ、…そんなに……迷惑、だったんスか?」

私の身体をそっと離した赤也の声は、普段の彼からは想像もつかないような弱々しいものだった。

泣きそうに顔を歪める赤也を見て、私も辛くなる。

「けど、俺……俺っ…」

変な意地を張っている場合でも自信がないと逃げている場合でも、ない。

ぎゅっと手を握り締め、揺らいでいる赤也の目を真っ直ぐに見つめる。

「私は、……赤也が好きだよ。」

「…………ほんとッスか?」

目を大きく見開いた赤也は、なかば呆然とした様子で聞き返してくる。

「うん。…本当に好き。」

「っ〜〜、なまえ先輩!」

いきなり視界が赤也の顔に占領され、唇に温もりを感じた。

(こ、これは……)

瞬きも出来ずにいると、周りからは悲鳴やら喚声やらが聞こえてくる。

「貴様ら、神聖なテニスコートで何をしている! さっさと離れんか!」

遠くから真田の怒声が飛んできて、触れていた温もりはさっと離れた。

「なまえ先輩、逃げましょう!」

固まっていた私の手を取って赤也が走り出し、私は引き摺られるようにして後に続いた。

前を走る赤也の背中を見上げれば、その上には青い青い空が広がっていた。



前向きな恋

(2011.05.05)

 

3万打感謝企画のアンケートでのコメントを参考にさせて頂きました。
タイトルは、いくつかある9月25日の誕生花のひとつ【萩(はぎ)】の複数ある花言葉の中から選びました。

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