short


恋人(後輩)/ヒロイン視点


今日は先輩の部屋で、借りてきた映画のDVDを見ていた。

ベッドを背もたれ代わりにして床に並んで座っている。

エンドロールが始まったところで、私の手に先輩の温かい手がそっと重ねられた。

少しドキドキしながら横を見ると、先輩も私を見ていて目が合った。

なぜか急に張りつめた空気になって、どうしていいか分からなくなる。

「ねぇ……キス、していい?」

沈黙を破って空気を震わせた言葉はやけに耳に響いた。

頬に熱が集まり、高鳴る鼓動を抑えられないまま、私はこくりと小さく頷いた。

「なまえちゃんは可愛いなぁ。」

ゆるく笑った先輩の顔がゆっくりと近付いてきて、私はぎゅうっと目をつむって息を止めた。

頬に柔らかい感触がして、次にそれは唇のすぐ横に触れた。

だけど、きゅっと結んだ唇には触れず、代わりに先輩が軽く息を吐いた気配がした。

そっと目を開けると、先輩は少し赤い顔をしていた。

「清純、先輩…?」

「あはは……余裕ないとこ見られちゃったな。」

困ったように笑って指で頬をかく先輩に、私は目を瞬かせた。

「いや、その……緊張しちゃってさ。」

視線を彷徨わせる先輩を、思わずじっと見てしまう。

「意外です。」

「はは……だよね〜 俺って遊んでるイメージでしょ? 確かに、よく女の子に声かけてたしさ。けど、付き合ったことはないんだよね。だから、慣れてなくてさ…」

苦笑いしながら話す先輩を見て、戸惑っているのが自分だけではないと思い、どこかホッとした。

「なんだか少し安心しました。」

「へ? 安心?」

「はい。自分だけが緊張してると思ってたので、先輩もおんなじだって分かったら…」

「そ、そう…? って、それで良いのかなぁ。何か…男としても、年上としても…」

「良いじゃないですか。少なくとも私はそんなこと気にしません。」

複雑そうな顔をする先輩に微笑みかける。

黙り込んだ先輩が真剣な瞳で私を見つめて、思わずひくりと喉が鳴った。

「今、すごく…君にキスしたいんだけど……いい?」

答える代わりに静かに目を閉じると、左の頬に先輩の手が添えられた。

胸がドキドキし過ぎて苦しい。

「好きだよ…なまえちゃん…」

ゆっくりと重ねられた先輩の唇は温かくて、少しだけ震えていた。



はじめてのキス

(2011.04.27)

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