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同学年/仁王視点


あまり使われていない資料室は埃っぽくて空気が淀んでおり、とても不快だ。

俺の横に立つ彼女も顔をしかめている。

(まあ、仕方ないのぅ。)

心の中だけで溜息を吐き、覚悟を決めて中に入る。

「あの…ごめんね。ありがとう。」

「気にしなさんな。大したことじゃなか。」

眉尻を下げて申し訳なさそうに言う彼女に、他人には見せない柔らかい表情で笑いかけてやる。

「っ……う、うん。でも、助かるよ。」

「どういたしまして。…じゃ、始めるかのぅ。」



先程の少し照れたような彼女の顔を思い出すと、自然と頬が緩みそうになる。

(可愛いもんじゃな。)

彼女を手に入れたくて、何かと機会を見つけては近付いた。

全く接点のない、しかも【詐欺師】の異名を持つ俺に、最初こそ警戒していた彼女。

けれど、今日みたいにちょっとしたことで困っている彼女を助けてやったり、たまに優しく笑いかけてやったり。

素直な彼女は、徐々に、そして容易く俺に惹かれてくれた。

目が合えば逸らすのに、いつも俺の姿を目で追っている。

そんな分かり易い彼女が可愛くて仕方ない。

そんなことを思いながら棚を探していると目的の資料らしきものがあり、俺は別の場所を探している彼女に声をかけた。

「これじゃなか?」

近寄ってきた彼女に表紙を見せて本を差し出す。

「うん、これで間違いないと思う。仁王くん、ありがとう。……っ!」

微かに触れた指先。

床に落ちた本。

弾かれたように引いた自分の手を押さえた彼女は、真っ赤になって固まっている。

「…っ、…あ……えと…」

駄目だ。

俺が限界だ。

(可愛過ぎるじゃろ。)

焦って言葉を探す彼女から、俺はわざと顔を背けた。

「お前さんは……俺のことが…嫌い、なんか?」

「……え?」

「そうなんじゃろ? 触られるのが……嫌なくらい…」

「ち、違うよ! そんなことない!」

力の無い声で続ける俺に慌てて否定する彼女。

その必死な様子に、緩みそうになる口元を引き締める。

「無理せんでええよ…」

「っ…そうじゃ、なくて……あのっ、私…私……、好き、なの…に、仁王くんの、こと……だからっ…」

本当に、彼女は俺の期待を裏切らない。

引き出すことが出来た言葉に緩む口元を見られないよう、俺は彼女を抱き締めた。

「っ……に、お…くん?」

腕の中で固まる彼女の耳元に唇を寄せて、

「俺も、好いとうよ…なまえ。」

ご褒美とばかりに甘く囁いた。



欺かれた人

(2011.03.20)

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