恋人/忍足視点
穏やかな春の陽射しが降り注ぐ午後。
見上げれば、咲き誇った薄紅色が視界を覆う。
思わず見入ってしまう程の美しさは、儚く散りゆくが故なのか。
けれど、それ以上に俺の心を奪っているのは、隣にいる彼女の存在だ。
横に視線を移せば、それに気付いて微笑んでくれる。
「桜、綺麗だね。」
「ああ。」
「来て良かったね。」
「せやな。」
再び頭上の薄紅色を眺める。
あまり言葉を交わさなくても気まずくならない、この穏やかな空気が好きだ。
不意に、左肩に掛かる僅かな重み。
「何や、眠いんか?」
「…ちょっと、だけ。」
俺の肩に頭を乗せて寄りかかっている彼女の声も顔も眠たそうだ。
「時間あるんやし、寝てもええで。」
「やだ、もったいない。」
「そうか? むしろ、贅沢でええやん。」
「だって、せっかく一緒にいるのに…」
少しだけ拗ねた様な表情をした彼女だが、優しく髪を撫でれば、嬉しそうに微笑んだ。
隣から可愛らしい寝息が聞こえてきたのは、それから少し後のこと。
君の夢が甘美でありますように
(2011.03.10)
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