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恋人(同学年)/日吉視点


部活を終えて帰路に就くが、彼女は少し離れて俺の隣を歩いている。

そんな彼女との距離を埋めたくて、その手を取った。

「ひ、日吉くん…っ」

ビクリと肩を揺らして、離れそうになった彼女の小さな手を強く握る。

「嫌なのかよ?」

「……そんなこと、…ないよ。」

消え入りそうな声と共に、彼女は弱々しく手を握り返してきた。

それでも、まだ気に入らない事が一つある。

「お前…いい加減、俺の事は名前で呼べよ。」

「それは……その、急には無理だよ。」

焦った様子の彼女に断られるが、引くつもりはない。

「無理じゃないだろ、なまえ。」

じっと隣の彼女を見つめるが、その口元は動かない。

「っ、…………やっぱり、無理だよ…」

「そうかよ。」

真っ赤な顔をした彼女の手を離して、自分のペースで歩き出す。

「あっ……待ってよ、日吉くん!」

俺を呼ぶ彼女を振り返らずに、そのまま歩き続ける。

「日吉くん! ねぇ、日吉くん…っ …………わ、……若くん!」

彼女に呼ばれた自分の名前は特別に響いた気がした。

「遅いぞ、馬鹿。」

走って追いかけてきた彼女の手を握り、歩く速度を落とす。

「ひどいよ。急には無理って言ったのに、苗字で呼んだら無視するなんて…」

「仕方ないだろ。」

「なにが?」

「さあな。」

「…いじわる。」

拗ねたような顔をして、繋いだ手を離そうとする彼女の手をきつく握る。

(お前が好きだって事なんだよ。)

名前で呼んで欲しいなんて事を思うのは、彼女だけなのだから。



性急な解決

(2011.03.08)

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