同学年/マネージャー/ヒロイン視点
いつものようにテニスコートの周りには女の子たちがたくさんいて、テニス部の練習を…いや、主に“跡部景吾”を見に来ている。
派手好きで目立ちたがり屋の跡部は、その声援を一身に受け、とても満足そうにしていた。
女の子に個人的に言い寄られるのは面倒だけど、遠巻きに騒がれるのは好きらしい。
尊大な振る舞いをする跡部だけど、部員たちからの信頼は厚い。
それは、その実力は勿論のこと、厳しいだけではなく部員たちを大切にしているからだろう。
そして、他人に対して以上に自分に厳しく、あまり人に見せない所で努力をしている。
そんな跡部に魅せられ、同じ景色を見たくて、私はここにいる。
眩しいばかりの姿に背を向けて、私は自分の仕事に戻った。
窓から射し込む夕陽によって、部室は優しい飴色に染められている。
私は部誌に目を通している跡部の机を挟んだ向かい側に座って頬杖をついていた。
色素の薄いライトブラウンの髪や宝石を嵌め込んだような深いロイヤルブルーの瞳は本当に綺麗だな…とか。
意志の強そうな眉、伏せられた長い睫毛、スッと通った鼻筋、形の良い唇など全てが作り物みたいに整っているな…とか。
そんなことを思いながら跡部を見ていた。
「さっきから、なに見蕩れてんだ。俺様に惚れたかよ?」
不意に手元から顔を上げた跡部は、口許を歪めて尊大な笑みを浮かべた。
「違うよ。ただ見てただけ。」
綺麗なものを愛でるのは当然なことだと思う。
「お前は、…俺を見てないだろ。」
「跡部?」
言われた言葉の意味が分からなくて戸惑っていると、ガタンと音を立てて跡部が立ち上がった。
「俺を遠ざけるな。」
横に立った跡部は、私の腕を掴んでイスから立ち上がらせた。
「なに、言ってるの?」
急に近付いてきた綺麗な顔がぼやけていく。
そして、唇に感じた温もり。
「っ!!」
乾いた音が静まり返っていた部室に響いた。
「……な、んで…?」
右手が痛い。
「俺がしたかったからだ。」
左の頬だけを赤くした跡部に悪びれた様子など一切無い。
「…っ、……」
私を見据える強い色をした瞳から目が逸らせない。
「ちゃんと俺を見ろよ。」
嫌だ。
抱きたくない感情だ。
目の前にいる人に対してだけは。
「そんなの、…知らないっ」
逃げようとする私を、跡部は再び引き寄せた。
尊敬しているが恋愛ではない
(2011.02.27)
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