short


恋人(先輩)/マネージャー/切原視点


窓から夕陽が差し込んでいる部室には先輩と俺だけしかいなくて、すごく静かだ。

机をはさんだ向かい側で部誌を書いている先輩を、俺は頬杖をつきながら黙って見つめていた。

「赤也。」

「何スか、なまえ先輩?」

不意に顔を上げた先輩は困ったような顔をしていた。

「そんなに見られてたら気まずいんだけど。」

「俺のことなら気にしなくていいッスよ。」

ニッと歯を見せて笑った俺に、先輩はあきれたようにため息をついた。

「いや、そういう問題じゃないからね。」

「いいじゃないッスか、減るもんじゃないし。」

だいたい、自分のカノジョを見てて何が悪いのか。

「だから、そういう事じゃなくて……私が落ち着かないの。」

「そんなに嫌なスか? 俺に見られんの。」

「……嫌じゃない、けど…」

俺が分かりやすくションボリした様子を見せれば、先輩は少し目をそらして口ごもった。

「じゃ、見ててもいいってコトですよね。」

「もうっ 私の話、聞いてるの?」

少し怒ったような先輩に向かって、俺はニコニコと笑った。

「ちゃんと聞いてますって。嫌じゃないなら、別にいいっしょ?」

「はぁ……もう勝手にして。」

先輩はあきらめたように大きく息を吐き出すと、部誌を書くのを再開させた。



(んー?)

遠慮なくジッと見つめていると、先輩の頬が差し込む夕陽とは違う色に染まっているのに気付いた。

「ねぇ、なまえ先輩。」

「なに?」

先輩は目をふせたまま短く答える。

「もしかして、照れてます?」

「別に。」

「照れてるんしょ?」

「違うから。」

否定する先輩だけど、その頬はさっきよりもハッキリと赤くなっている。

「なぁ、キスしていい?」

「なっ……なに、急に!?」

はじかれたように顔を上げた先輩に、ニッコリと笑いかける。

「だって、先輩が可愛いから。」

「なに、それ…っ いきなり言われても困るよ。」

また先輩は俺から視線をそらした。

「でも、嫌じゃないんですよね?」

「さっきもだけど…狡いよ、それ。」

うらめしそうに言う先輩だけど、怒ってはいないと思う。

「じゃ、いいんスね?」

「……いちいち確認しないで。」

俺はイスから立ち上り、頬を染めたままの先輩の隣に移動した。

「なまえ。」

イスに座ったまま、うつむいて俺を見ない先輩の腕を掴んで立ち上がらせる。

「そういう態度、傷付くんだけど。」

「ご、ごめん。……その、恥ずかしくて…」

「嫌じゃないんだよな?」

念押しすれば、先輩はおずおずと俺を見上げた。

「…うん。赤也のこと、好きだもん。」

先輩は赤い顔で言って、ギュッと俺のシャツのすそを握った。

(いちいち可愛いな、この人は。)

俺は背中に手を回して先輩を抱き寄せる。

「俺も好きだ、なまえ。」

オレンジ色に染まった部室で、その柔らかな感触を確かめるように何度も唇を重ねた。



君を捕らえる

(2011.01.22)

- ナノ -