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同級生/ヒロイン視点


「恋愛は先に好きって言うた方が負けなんじゃよ。」

仁王は私の前の席のイスを引いて横向きに座るなり、急にそんなことを言った。

目の前の詐欺師が何の脈絡もなく話を切り出すのはいつものことだ。

「まあ、そう言う人もいるよね。」

私は相槌を打ちながら、随分と珍しいことを話題にしたなと思った。

「やけぇ、俺は自分からは告白せん。」

私に横顔を見せて窓の外に視線を逃したまま続ける仁王の意図は何だろうか。

「何の宣言だ。…けどさ、それじゃ先に進まなくない?」

「いいや? 俺はどんな手段を使ってでも相手に好きだって言わせるからのぅ。」

仁王は口角を僅かに上げて薄く笑う。

一体どんな計略を巡らすのか、仁王の頭の中なんて私には想像も出来ない。

「あえて詳しくは聞かないから。」

「聞いたところで、お前さんには出来んじゃろ。」

「煩いよ。大体、私はそんな回りくどいことなんてしないから。」

「直球勝負か。」

「そうだよ。素直になった方が勝ちだって、私は思ってる。」

「ほぉ?」

顔は窓の方に向けたまま、仁王は視線だけを私に寄越した。

「真っ直ぐに向かってこられたら敵わないじゃない? 自分の意地とかプライドとか、バカらしくなる。」

「ふーん……確かに、そうかもしれんな。だが、お前さんは告白しとらんじゃろ。」

「…まあ、ね。」

感の鋭い仁王なら分かっていると思っていたから、図星を指されたことに驚きはしなかった。

「で、告白はせんのか?」

やけに同じ話題にこだわる仁王の態度に、どこか確信めいたものを感じる。

それとも、これは自分の都合の良い期待だろうか。

「答えんのか?」

「好きじゃない相手に告白されても迷惑でしょ?」

「そんな思いやりなんか要らん。」

僅かに眉を寄せた仁王の声が少しだけ低くなった。

その様子に、この確信が間違いではないと自分の中で結論づける。

どうやら仁王は意外と分かりやすい、らしい。

「全く意見が合わないね。」

私は余裕があるように装って、口元に笑みを浮かべる。

「いいから、さっさと言いんしゃい。」

仁王は身体ごと私に向き直ると、机の上にあった私の手首を掴んだ。

「私に…勝ちたいんでしょ?」

笑みを深めた私は掴まれている手の人差し指で仁王の唇をつついた。

「俺は自分の価値観でしか動かんよ。」

「強情だね、仁王は。」

自分が余裕の無さそうな表情をしていることに、仁王は気付いていないのだろうか。

「お前さんは嘘吐きじゃ。」

私の手首を掴んでいる仁王の手の力が強まる。

「嘘なんてついてないよ。」

「吐いとるじゃろ。お前さんは…」

「私は仁王が好きだよ。」

仁王の言葉を遮り、私はにっこりと笑ってみせた。



恋の勝利者

(2011.01.15)

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