後輩/千石視点
放課後、街の人波の中に見つけた後姿に駆け寄り、彼女の隣に並んだ。
「なまえちゃん、会いたかったよ〜 で、今度の日曜日なんだけど、俺とデートしない?」
「飽きませんね。」
俺をチラリと見て、彼女はすぐに視線を前に戻した。
「キミに飽きるわけないじゃない。だから、デートしようよ。」
「遠慮します。」
取り付く島もなく、彼女は俺の誘いをアッサリと断る。
いつもつれない返事ばかりだけど、俺は不思議と彼女のことを嫌いじゃない。
「遠慮なんてしなくていいよ。俺とキミの仲じゃない?」
「どんな仲ですか。そもそも、デートは好きな人とするものだと思いますが。」
「……じゃあさ、俺のこと好きになってよ。」
俺の言葉に彼女が急に立ち止まったから、俺も足を止める。
「今ここで、私が先輩を好きだと言ったら……本当に嬉しいですか?」
俺を真っ直ぐに見つめる彼女の瞳に責めるような色はないのに、目を逸らしたくなるのはどうしてだろう。
「そりゃあ……嬉しい、よ。」
俺の答えに彼女は小さく息を吐いて表情を曇らせた。
「そうやって、先輩は誰にも……好きな相手にも本当の自分を見せないんですか?」
「……何のことかな? 俺は俺だよ。今のがホントの俺だし…」
黙って見つめてくる彼女の視線が痛くて、俺は目を逸らした。
「本当の自分なんて……良いものじゃないよ。…少なくとも、俺は…ね。」
格好悪いのも情けないのも含めて自分自身なんだろうけど、そんなのは他人に見せたくない。
「私も同じです。自分のことは良く見せたいです。」
そこでいったん言葉を切った彼女は、どこか切実さを秘めた表情をしていた。
「でも、本当の本当は……好きな人には、ありのままの自分を認めて欲しいって思います。そして、好きな人のことを全部受け止められる自分でありたいです。」
彼女の言葉に、何でか分からないけど俺は泣きたくなった。
目の前にいるこの子なら、どんな俺でも幻滅しないでいてくれるのだろうか。
今の気持ちを何と言えばいいのだろうか。
俺は言葉にならない感情と共に彼女を抱き締めた。
「千石、先輩…?」
触れた所から伝わればいいのに。
そう思ったら、彼女を抱き締める腕には自然と力が入ってしまう。
「ごめん。俺…意味が分からない、よね……けど、もう少しだけ…」
訳が分からないはずの俺の行動を咎めない彼女。
彼女の小さな手が俺の背中をそっと撫でてきて、身体がビクリと震えた。
「そんな、優しくしないでよ。…弱く、なるから…俺……」
「大丈夫です。……好きですから。」
耳に届いたのは、今まで聞いたことのない優しい声。
「どんな先輩でも、私は好きです。」
「っ、……なまえ、ちゃん…っ」
とても言葉にならず、俺はただ彼女を抱き締めるしか出来なかった。
自然のままのあなたが好き
(2011.01.06)
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