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同級生/ヒロイン視点


「……ん…」

ふと目が覚め、頬杖をつきながら俯いていた顔を上げる。

「おはようさん。」

なぜか目の前にいたその人は、ニッコリと私に笑いかけてきた。

「っ…お、おおっ、忍足くん!?」

驚いて、イスに座ったままズササッと勢いよく後ろに下がると、イヤホンが耳から外れた。

「すまんな、みょうじさん。何聴いとるか気になって、勝手に片方だけ借りとったわ。」

「え? ……あ。…ぜぜんっ、いいよ?!」

言われてから気付いたけれど、イヤホンの片方が忍足くんの耳に収まっていた。

「そないに焦らんでも…」

私の挙動不審っぷりに忍足くんは小さく苦笑を洩らしながら、自分の耳から外したイヤホンを机の上のウォークマンの脇に置いた。

「良い曲やな、これ。」

「う、うん。……声が綺麗っ、だよね。今、すごく好きで…」

私が聴いていたのは、透き通った声で甘く切ない恋模様を歌う女性アーティストの曲だ。

「俺も気に入ったわ。」

少し目を細めて柔らかく微笑んだ忍足くんに、胸が高鳴る。

「あ、あの…っ よかったら、アルバムっ、貸すよ!?」

「ええの? ほな、頼むな。」

「っ…う、ん! 今度、持ってくるからっ」

目の前で微笑む忍足くんが眩し過ぎて、眩暈がしそうだ。


● ● ●


忍足くんとは同じクラスだけど、まともに話をしたことはなかった。

だけど、あの日の放課後をきっかけに、少しずつ話をするようになっていた。

私はいつも落ち着かなくなってしまうけれど、話をできるのが嬉しかった。

でも本当は、もっと――

私は教室の窓枠に肘をついて夕暮れに染まる空をぼんやりと眺めながら、溜息を零した。

「みょうじさん、まだ残ってたん?」

耳に直接流れている曲よりも、やけにはっきり聞こえた声。

それに振り返れば、今まさに考えていた忍足くんが近くに立っていて、一気に鼓動が速くなる。

「忍足、くん……えっと…」

慌てて耳からイヤホンを外す。

「今日も聴いてたん?」

「…うん。……新曲、なの。」

落ち着かなくて、手にしているイヤホンを握り締める。

「俺も聴かせてもろうてもええ?」

「う、うん…っ もちろん、だよ。」

ブレザーのポケットに入れてあるウォークマンを取り出して渡そうとする前に、忍足くんは私の手からイヤホンを取り上げてしまった。

それを片方だけ耳につけて、忍足くんは曲に聴き入るように目を閉じた。

訪れた沈黙が気まずくて、私も残されたイヤホンの片方を耳にはめた。

流れてくる、先程まで聴いていた彼女の曲は、今までと少し違う。

そっと背中を押してくれて、勇気をもらえるような、優しさの中に強さを感じる曲だ。

だけど、私は踏み出せない。

幸せな結末が約束されている物語ではない私の恋。

それなのに、どうして伝えられるだろうか。

けれど、目の前にいる人を見て思うのは、

「好き。」

とてもシンプルな気持ち。

「……俺も、好きやで。」

閉じられていた目蓋が持ち上げられ、忍足くんと目が合う。

途端に、暴れ出す心臓。

「っ!? ……あっ、…良い曲、だよねっ」

一瞬だけ、勘違いしそうになった自分が恥ずかしくて、私は耳まで火照るのを感じながら下を向いた。

「いや、そうやなくてな…」

忍足くんがさらに近付いた気配がして、私はますます顔を上げられなくなってしまった。

片耳にしていたイヤホンが外され、曲の代わりに吹き込まれた言葉は――



想えば想われる

(2010.12.31)

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