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幼馴染(同学年)/ヒロイン視点


「まぶしいなぁ。」

コンクリートの地面に仰向けに寝転がってぼんやりと眺める先の空は、私の気持ちとは正反対にどこまでも青く晴れ渡っている。

私の気持ちなんてお構いなしに日常は流れていく。

私の気持ちだけが取り残されていく。

「なまえ!」

沈んでいく思考と共に目蓋を閉じようとした時、屋上の扉が乱暴に開けられて、私の名前を呼ぶブン太の声が響いた。

給水塔の上にいた私は、身体が金縛りにでもあったように動かなくなって、ただ必死に息を殺した。

心臓の鼓動は速度を上げ、身体には嫌な汗が滲んでくる。

だけど、ブン太は私の存在に気付くこともなく、すぐに屋上を後にした。

「ブン太…」

口から出たかすれた声で、ブン太が自分を見つけてくれなかったことを残念がっている自分に気付いた。

会ったところで、どんな顔をしていいのか、なにを言えばいいのか、わからないのに。

自分から避けていたくせに。

でも、本当は会いたいんだ。

声が聞きたいんだ。

「……っ、…」

喉の奥からせり上がってくるものを抑えられない。

にじんでくる涙がこぼれないように快晴の空をあおいだけれど、

「好き…っ、……好きだよぉ……ブン太ぁ…」

あふれた涙は頬の熱を奪って流れ落ちていく。



「泣くなよ。」

感情の高ぶりをこらえ切れず、嗚咽をもらし続ける私に突然、降ってきた声と差した影。

それが誰のものかなんて、顔を上げて確かめるまでもない。

「ブン太……なん、で…?」

答えの代わりに、ぎこちない指先で目許の涙をぬぐわれた。

だけど、涙は止まるどころか次々にあふれてきて、冷えた頬をさらに濡らす。

会いたかったはずなのに、いざ会ってみれば胸が苦しくて、押し潰されそうだ。

「優しくなんて、しないで……私のことは、放っておいてよ…っ」

もう、幼なじみの関係には戻れないのだから。

こんな気持ちでは、そばにいることなんてできないのに。

「出来ねぇよ。放ってなんかおけるか。」

「……ブン太?」

気付いた時には、私はブン太の腕の中にいた。

「やだ、離して…っ」

身をよじる私を、ブン太はさらに強い力で抱き締めてきた。

「俺……お前が好きだ。」

その言葉に、私は抵抗を忘れた。

「お前が俺のそばからいなくなるのなんて考えらんねぇし、他のヤツになんか絶対に渡したくねぇ。だから…俺はお前が好きなんだよ。」

「……ほんとに? ほんとのほんと?」

言われた言葉が信じられなくて、私はバカみたいに聞き返した。

「ああ。だから、もう泣くな。」

私の頬にブン太の温かい手が触れ、顔を上げさせられた。

「…っ、……むり、だよ……嬉し、くて…っ」

視界が揺れる。

これ以上、泣き顔を見られたくなくて、私はブン太の胸に顔を埋めた。

「ほんと泣き虫だよな。昔から変わんねぇの。」

あきれたような声で言ったブン太だけど、私の頭をなでてくれる手つきは優しくて、私はますます涙が止まらなくなった。

「だって……ブン太、がっ……なっ、泣か…せ、だもっ…」

「あー、分かったって。俺が悪かった。…ごめんな。」

抱き締めてくれるブン太にしがみついて、私は小さな子供みたいに泣きじゃくった。


● ● ●


「お疲れっ」

私は軽く息を吸ってから、校門を出てきたブン太に声をかけた。

「お、おう。」

目が合ったけれど、お互いに視線をそらしてしまう。

なんだか妙に照れくさい。

たまに一緒に帰ることはあったけれど、わざわざ待ち合わせたのは初めてかもしれない。

あまり変わっていないようで、少しずつだけど、確実に変わってきている二人の関係。

それには、まだ慣れない。

「帰ろうぜ。」

「うん。……あっ」

先に歩き出したブン太の横にあわてて並ぶと、少し乱暴に手を取られた。

不自然に私から顔を背けているブン太の頬と耳が紅く見えるのは、夕陽のせいじゃないだろう。

だけど、それを指摘できないくらいに私の顔も紅く染まっているだろうことが、頬の熱さからわかる。

鼓動だって速くなっている。

だけど、それは嫌なんかじゃ全然なくて、私は軽く触れているだけに近いブン太の手をぎゅっと握った。

ブン太はなにも言わずに、少し強めに私の手を握り返してくれた。

いつもより口数の減った私たちは、オレンジ色に染まった帰り道をゆっくりと歩いた。



いつまでもあなたと一緒

(2010.12.26)

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