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恋人(同学年)/ヒロイン視点


待ち合わせている時間になり、教室から校門の所に移動した私は、オレンジ色の空を見上げた。

「悪りぃ、待たせたなっ」

その声に振り返り、急がなくてもいいのに、いつも走って来てくれる姿に嬉しい気持ちになる。

「ううん、そんなに待ってないよ。…お疲れさま、亮。」

「おう。んじゃ、帰るか。」



並んで歩くけれど、二人の間の微妙な距離が少し寂しいと思ってしまう。

別に、付き合っているからベタベタしなきゃいけない訳じゃないけれど。

好きな人に触れたくなるのは、ごく普通のことだと思う。

今日こそは、と勇気を出して隣を歩く亮の左手に自分の右手を伸ばす。

「なっ、何だよ?!」

微かに指先が触れた瞬間、手を振り払われてしまった。

「……手、繋ぎたい。」

少し赤い顔をした亮の顔を見ながら、何とか言った。

顔が熱くて、自分はもっと真っ赤になっているのが分かる。

「なっ、なな何言ってんだっ」

「私と手を繋ぐの…嫌?」

「……別に…嫌じゃねぇよ。」

「じゃあ、繋いでくれる?」

少しの期待を込めて聞く。

「い、いやっ、それは……今度な。」

「私は“今”繋ぎたいの。」

望んだ答えは返ってこなくて、食い下がってみるけれど…

「っ……、それは、だな…、その……」

言葉に詰まる亮を見て、私は目を伏せた。

こんなふうに困らせたかった訳じゃない。

「…ごめん。」

亮が照れているだけなのは分かっているけれど、断られてしまったのは少し悲しい。

沈んだ顔を見られないように、私は早歩きになって亮から距離をとった。

「なまえ! …悪かった。」

亮が隣に並んだと同時に右手を温もりに包まれた。

驚いて横を見上げれば、さっきよりも真っ赤な亮の顔があった。

「っ…バカ、見るなって!」

目が合うと、慌ててそっぽを向いた亮だけど、耳まで真っ赤だ。

「ありがとう、亮。…大好きだよ。」

繋がれた手をぎゅっと握り返す。

「っ……、…んなこと、簡単に言うなよ。」

「簡単じゃないよ?」

私だって顔が赤いだろうし、胸だってドキドキしている。

「……わっ!?」

照れて少し俯くと、急に視界を遮られた。

亮が自分の被っていた帽子を私に被せてきたのだ。

つばが邪魔で前が見えなくて、帽子を取ろうとしたら上から押さえられた。

そして降ってきたのは、少し乱暴な声。

「俺も…好きだぜ、なまえ。」



爽やかな交際

(2010.12.12)

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