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恋人/跡部視点


今日は久々の休日だが、窓の外では細い雨が降っている。

だが、外の天気など俺にはどうでもいいことだ。

自室の誂えの良いソファーに座って洋書を読んでいる俺の膝に頭を乗せて眠っている彼女。

静かな雨音とページを捲る音、そして彼女の微かな寝息が聞こえるだけの空間。

ゆったりとした時間が流れる。

きりのいい所まで読み終えた俺はページを捲る手を休めた。

眠ったままの彼女の頬に触れれば、指先に伝わってくる愛しい温もり。

絹糸のような艶やかな髪を一房掬い上げ、指先に絡めて弄んでいると、

「…………、……ん…?」

小さく声を漏らした彼女の目蓋がゆっくりと開かれた。

まだ夢心地の瞳が俺を映す。

「大人しく寝ていろ。」

頭を撫でてやれば、彼女は幸せそうに俺を映す瞳を和ませた。

「愛してるぜ、なまえ。」

甘く囁いて、彼女の額に唇を寄せる。

「……ぅ、ん…」

分かっているのかいないのか、緩く微笑んだ彼女の瞳はゆっくりと閉じられた。

「幸せな奴だぜ。…まあ、当然だがな。」

この俺が大事にしているのだから。

もう一度、眠る彼女に囁く。

「ずっと、愛している。」



沈んでいた意識が浮上していき、目が覚めた。

いつの間にか眠っていたらしい俺は、先程とは逆に彼女を見上げていた。

「起きた?」

「……ああ。…どれ位だ?」

横に寝かされたことに気付かなかったのは不覚だが、悪い気分ではない。

「ええとね…20分くらい、かな。」

「そうか。」

起き上がらない俺の髪を彼女の手が優しく梳くよう撫でる。

「大人しいね?」

「何だよ。」

どこか楽しそう微笑む彼女の様子に、自分の眉間に皺が寄るのが分かる。

「……可愛いなって。」

「馬鹿か。」

少し躊躇った後に発せられた言葉に、俺は彼女の後頭部に片手を伸ばした。

「ちょっ…、待っ……、…っ」

「可愛いのはお前だろうが。」

後頭部に回した手をそのままに唇を離し、頬を朱に染めている彼女に鼻先が触れそうな距離で言ってやる。

「っ……、ばか…」

「俺に惚れている癖に、そんなこと言いやがるのか?」

「もう…っ ……手、離してよ。」

視線を逸らす彼女の言葉を無視し、その素直じゃない口をもう一度、塞ぐ。

「で、答えは?」

さして抵抗はしなかった彼女に意地悪く聞いてやる。

「……好き、だよ。」

小さな声は確かに耳に届き、俺は口許の笑みを深めた。



愛のささやき

(2010.11.28)

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