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同級生/マネージャー/ヒロイン視点


教室の窓からテニスコートをながめる。

だけど、いつもならそこで汗を流しているはずの彼の姿はない。

こっそりとため息をつき、机の上のプリントとにらめっこをしている彼――赤也へと視線を向けた。

(いつになったら終わるんだか。)

英語の小テストの結果が悪過ぎて、一人だけ課題を出されてしまった赤也の手元はぜんぜん動いていない。

かわいそうに思えるけど、苦手だからと勉強しないのが悪い。

いわゆる自業自得というやつだ。

「あー、もうっ! わっかんねー!」

頭をガシガシかきながら叫ぶと、ついに赤也は机に突っ伏した。

「教科書でも参考書でも見て早くやったら?」

あきれながら言えば、赤也は机に投げ出していた上半身を起こして窓辺に立っている私を振り返った。

「見てもわかんねーんだよ。つか、残ってんなら教えろよな。」

ムスッとした表情をする赤也だけど、ここで私が甘やかすわけにはいかない。

「ダーメ。私は赤也がサボらないように見張るのが役目なの。」

同じクラスで部活のマネージャーでもあるからと、先生に監視を頼まれたのだ。

「んなの、どーでもいいから教えてくれよ。なっ、この通り!」

赤也は拝むように両手を合わせて頭を下げる。

そんなふうに頼まれると弱いけれど、流されてはダメだ。

「自分でやらないと身にならないよ。」

ちゃんと自分で調べて勉強するようにしないと困るのは本人なのだから。

「ケチー ちょっとくらいいいじゃん。」

「ダメなものはダメだから。しゃべってないで早く終わらせる。」

「だからさぁ、できるならやってるっつーの。ったく、なんで…」

ブツブツ言いながらも赤也がプリントに向かったのを見て、私は再び窓辺の外へと視線を戻した。

「早く部活行きたいなー」

赤也のテニスをしている姿が見たい。

机に座って勉強しているのなんて、ぜんぜん似合わない。

「俺だってサッサと行きたいっての。」

私の独り言はしっかり聞こえていたらしく、不満げな声が返ってきた。

「じゃあ、早く終わらせてよー」

赤也のいないテニスコートをながめながら言う。

「お前、さっきから誰見てんの?」

「んー? 誰っていうか、テニスコートだけど。……あ、丸井先輩だ。」

距離があるにもかかわらず私に気付いたらしい丸井先輩がこっちに手を振っていた。

私も手を振り返したら、後ろから近付いた仁王先輩が丸井先輩の頭をこづいた。

「あははっ 何やってるんだろ。……あ、怒られた。」

じゃれ合っている二人に向かって真田副部長が怒鳴ったらしいのが遠目でも分かった。

「おい、なまえ!」

「わあっ!?」

急に手首を掴まれて下に引っぱられ、私は床に座り込んでしまった。

勢いよく膝を床に打ち付けてしまい、痛みで目尻に涙がにじむ。

「もう、何す…っ」

目の前にしゃがんでいる赤也に文句を言おうと顔を上げたけど、私は続きを言うことができなかった。

赤也に口をふさがれたから。

無遠慮に押し付けられた唇はすぐに離れた。

「……なん、で…」

驚いて固まる私の目の前には、赤也の怒ったような顔がある。

「お前が悪いんだからなっ」

乱暴に吐き捨てた赤也の顔が赤い。

だけど、私の顔はもっと赤いだろうことが顔の熱さから分かる。

「な、何が…っ?!」

「俺はっ、お前が好きなんだよ! だから他の奴なんか見てんじぇねーよ!」

「わ、私だって! 赤也が好きだよ! でもっ、いきなり…キ、キスするなんてバカじゃないの!?」

嬉しいのやら恥ずかしいのやらで混乱して、ついケンカ腰に返してしまう。

「なっ…バカは余計だろ! つか、お前が悪いって言ってんじゃん!」

「は!? そんなの…っ」

「いいから、お前は俺だけ見てろよな!」

言葉をさえぎられ、また乱暴に唇を重ねられた。

そのせいで、『ずっと赤也しか見てなかった』という言葉は言えなかった。



あなただけを見つめています

(2010.11.20)

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