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恋人(同学年)/柳視点


茜色に染まった空の下を、彼女と手を繋いで歩く。

「ねぇ、蓮二。部活で…何かあった?」

不意に、彼女は心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

彼女は俺のことに関しては、鋭い。

「そんな顔をする必要は無い。何も無いから心配するな。」

余計な心配をかけまいと微笑みかけた俺に、彼女の表情が曇る。

「気にするに決まってるじゃない。」

「なまえ?」

「私が蓮二のことを心配するのは当たり前なの。大事な人なんだから。それと、蓮二の『心配するな』は信用できない。」

真っ直ぐに俺を見る彼女の瞳は俺の虚勢を見透かすようで、不思議と安堵感を覚えた。

その心地良さに全て曝け出してしまいたくもなるが、彼女に己の無様な姿など見せたくはない。

「どうやら俺は、恋人からの信頼を得られていないようだな。」

「そういう言い方はしないで。他のことでは信用しているんだから。」

「例外無く信用してもらって構わないが?」

余裕があるように振る舞う俺の言葉に、彼女が立ち止まる。

つられて立ち止まった俺を、彼女はどこか悲しそうな顔をして見上げてくる。

「私はね、蓮二が抱える悩みや迷いを解決は出来ないよ。それはよく分かってる。すごく、悔しいけれどね。」

俺の手を握る彼女の手に力が篭る。

「でも、話を聞いたりするくらいは出来るよ。だから、私の前では無理しないで。…お願いだから。」

向けられる誠実そのもののような瞳。

繋いだ手から伝わってくる温もり。

強張っていた心が緩やかに解れていくのを感じる。

「俺はお前が居れば、それでいい。」

「え…?」

「お前が隣に居てくれるなら、俺は救われる。」

「私は…少しでも蓮二の助けになれているの?」

不安そうな表情をする彼女の手を強く握り返す。

「少し、ではない。大いに、だ。」

「…良かった。」

彼女は安心したように小さく息をつき、少し照れたように微笑んだ。

「俺は…お前の為になっているだろうか?」

「当たり前じゃない。」

少し不安になって尋ねた俺に、彼女は屈託無く笑った。

「…そうか。」

俺は彼女との距離を詰め、その額にそっと口付けた。

「っ、……な、何っ、いきなり…っ」

繋いでいない方の手で額を押さえた彼女は頬だけでなく耳まで紅く染めた。

「感謝の気持ちを行動で表しただけだが…嫌だったか?」

紅い顔を見つめながら問えば、さっと彼女は俯いた。

「嫌じゃない……けど、人前では止めて。」

「次回からは気を付けよう。お前の可愛い顔を他人に見せたくはないからな。…どうした?」

「分かってるくせに……意地悪。」

顔を上げた彼女が睨んでくるが、迫力は全く無い。

「おまけに、いつの間にか元気になってるし。」

「言っただろう。お前が居ればそれでいい、と。」

「……うん。…蓮二が元気出たなら、それでいいよ。」

柔らかく微笑む彼女のまだ紅い顔を、夕陽が更に赤く染めていた。



君いませば心和む

(2010.11.17)

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