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後輩/仁王視点


「そろそろ俺と付き合わんか?」

昼休みの屋上で、俺は壁に追い詰めた彼女の耳元で低く囁いた。

「何をもって『そろそろ』なのか、全く分かりません。」

必要以上の敬語で返す彼女は表情ひとつ変えはしない。

「いい加減、落ちてもいいと思うんじゃけど。」

「本当に意味が分かりませんね。」

少し食い下がってみても、彼女は取り合おうとしない。

「はぁ…、手強いのぅ。」

俺は壁についていた手を下ろし、彼女から身体を離した。

「大変そうですね、先輩。」

溜息をついた俺に、少しも感情のこもらない口調で言う彼女。

「全っ然、思ってないじゃろ。」

「そんなに……私に構って欲しいですか?」

「ああ、淋しくて死にそうじゃ。」

「…じゃあ、気が向いたら遊んであげますよ。」

彼女が挑発的な言葉を投げかけてきたところで、昼休みの終わりを知らせる予鈴が鳴った。

「時間切れ、じゃな。」



屋上に留まった俺は壁に背を預けて座っていた。

「詐欺師の名が泣くのぅ。」

彼女だけは思うようにならない。

だからこそ、落とし甲斐があるのだが。

しかし、進展のない状況に少し飽きてきたのも事実だ。

「どうしたもんかのぅ。……ん?」

もう授業は始まっているというのに、扉が開く音がして思考を遮られた。

近付いてくる足音へと視線をやると、教室に戻った筈の彼女がいた。

彼女は無言で俺の横に膝をつき、

「っ!!」

いきなり俺の唇を奪った。

触れるだけの口付けは一瞬、だった。

「気が向いたので。」

全くの予想外な展開に固まっていると、彼女の唇がゆっくりと弧を描いた。



気紛れな人

(2010.11.16)

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