short


※片想い

同学年/忍足視点


彼女には恋人がいる。

その恋人というのが、彼女には相応しくない……はっきり言ってしまえば、ろくでもない奴だ。

あんな奴のどこが良くて付き合っているのか、自分には全く理解できない。

どうして、彼女の隣にいるのが俺ではなのか。

あんな奴のことは捨てて、俺のところに来ればいいのに。

俺なら――



窓から射し込む夕陽に柔らかく染められた教室。

一体、何度この光景を見ただろうか。

必死に抗っても、結局は堪え切れずに涙で頬を濡らす彼女。

震えている薄い肩が酷く頼りない。

「大丈夫やって、な?」

俺は根拠がなければ思ってもいない、けれど彼女が欲しがっている言葉を吐き、儚げな背中をそっと撫でる。

「ごめっ…、……あり、がと……っ…」

「ええから、我慢せんで泣きや。吐き出さんと辛なるだけやで。」

これも嘘だ。

あんな奴の為に流す涙など見たくない。

だが、どこかで喜んでいる自分がいることは自覚していた。

こうやって慰める俺に縋り付く彼女を、この時だけは自分のものだと錯覚できるから。

告げられぬ想いと共に、俺は彼女を抱き寄せた。



悲しんでいる時の君が好き

(2010.11.16)

- ナノ -