同学年/謙也視点
誰かに名前を呼ばれたような気がして、ピタリと足を止めて振り返る。
「っはぁ……よ、かった……止まって…く、れて…っ」
振り向いた先にいたのは、去年同じクラスだったなまえだ。
どうやら聞き間違いではなかったようだと、肩で息をしているなまえのほうに歩いて行く。
「大丈夫か? っちゅーか、どしたん?」
走っている俺を追いかけてきたらしく、なまえはぜえぜえと荒い息を吐いている。
「…っ、……ゲ…セン…」
「ゲーセン?」
膝に両手をついたままのなまえがそれだけしか言わないから、俺は首を傾げる。
息を整えるのを待っていると、なまえは手に持っていたスマホを操作して、状況を飲み込めていない俺に画面を見せた。
表示されているのはクレーンゲームの写真で、中には爬虫類のぬいぐるみが積まれている。
色や柄は本物に近いが全体的にデフォルメされていて愛嬌がある。
「可愛い、でしょ?」
だいぶ息が落ち着いてきたなまえが気の抜けた顔で笑う。
「イグアナちゃんもいるから、謙也くんも一緒にお迎えに行かないかなって。」
「そんなら、学校いる時にでもメッセくれたら良かったやん。」
「ついさっき友達が教えてくれて、そのタイミングで謙也くんが走っていったから。」
「せやったんか。……自分、進行方向におったん?」
同じ学校の制服を着た生徒は何人か追い越したが、なまえの姿を見た記憶はない。
「いたんだよ。あんなスピードで走ってたら気付かなくても無理ないと思うけど。」
どこか呆れたように笑うなまえを見て、今日は髪を結んでいることに気付いた。
それでなまえの後ろ姿に気付けなかったのだろう。
どちらからともなく歩き出して、そのクレーンゲームがあるというゲーセンへと向かう。
「私の目当てはヒョウモントカゲモドキちゃんなんだ。」
隣で楽しそうに笑うなまえを見て、俺も楽しい気持ちになる。
「難しすぎるんですが。」
「全くやで。商売やし、アームの力が弱いのはしゃーないけど。」
二人してクレーンゲームの前でため息をつく。
まだドツボにはハマっていないものの苦戦しており、テンションはだだ下がりだ。
あまりにも取れなければ店員がアシストしてくれるだろうが、どうしたものか。
「とりあえず、もう少しだけやってみよか。」
「うん。今度こそいけるはずだよ。……たぶん。」
頼りないなまえの言葉にずっこけそうになったが、どうにか気合を入れ直す。
だが、そう簡単にいくはずもなく、両替した百円玉がどんどん減っていく。
それでも最後の一回でタグの輪っかを引っかけることに成功して、1匹だけ捕獲することが出来た。
「よしっ」
「やったね、謙也くんっ」
子供みたいにはしゃいだなまえが俺の腕にぎゅっと抱き着いてきた。
「ちょっ、なまえ?!」
「あっ、ごめん!」
「い、いやっ、エエねんけどっ」
お互いに変に意識してしまい、微妙な空気が流れる。
その空気を払拭する為に、取り出し口にいるぬいぐるみを捕まえてなまえに押し付けた。
「コイツはなまえが連れて帰りや。」
「いいの? 本当に?」
ヒョウモントカゲモドキのぬいぐるみを大事そうに抱えたなまえが申し訳なさそうな顔をする。
「自分が欲しがってたヤツやんか。俺は家に帰ればハヤブサがおるし。」
それになまえの家はペット禁止だから、ぬいぐるみがいれば癒されるだろう。
「ありがとう、謙也くん。」
なまえが嬉しそうに笑うから俺も普通に笑えたし、いつもの雰囲気に戻ったことにホッとする。
「そうだ! せっかくだからプリ撮ろうよ。この子も一緒に。ね、いいでしょ?」
「撮るのはエエけど、盛りまくるのはナシやで。」
この間はデカ目だけでなくメイクまでされて、ある意味では面白かったが、毎回は勘弁して欲しい。
「えー、楽しいのに。」
ちょっと不満そうななまえに苦笑しつつ、プリ機が並んでいるほうに一緒に向かった。
気の置けない性質
(2024.09.08)
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