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同級生/ヒロイン視点


今朝はアラームが鳴る前に目が覚めて、二度寝する時間はないからと、いつもより早いバスに乗った。

必然的にいつもより早い時間に学校に着いてしまい、他に誰もいない朝の教室でスマホをいじっている。

「ん?」

教室のドアの開く音がして、窓枠に背中から寄りかかっていた私は手元から顔を上げた。

「おはようさん、みょうじ。今日は早いんやな。」

「白石、おはよ。」

朝練で疲れていそうなのに今日もキラキラしているな、と変に感心しながら白石を見る。

この顔の良さにも慣れたつもりだけど、いつ見ても眩しいからイケメンはすごい。

「なあ、ちょっとエエか?」

「いいよー」

自分の席に荷物を置いた白石は窓のほうに近付いてきて、少し間を開けて私の横に並んだ。

「参考までに聞きたいんやけど、自分の好きなタイプの男ってどんな感じなん?」

「はい…?」

白石とはわりと話すけれど、恋愛系の話を振られたのは初めてで、私はぱちぱちと目を瞬かせた。

「あー、いや、言いたくなかったらエエねん。」

気まずそうに視線を逸らす白石を見て、私の頭には疑問符しか浮かばない。

「特にタイプとかないよ。ごめんね、参考にならなくて。」

何の参考にするのか分からないけれど正直に答える。

「ホンマに何もないん?」

「ええと、……あんまり分からないんだよね、そういうの。」

食い下がられてしまって、苦笑いを白石に返す。

「あんま興味ないっちゅうことか?」

「興味というか、恋愛経験がないんだよね。……笑いたければ笑っていいよ。」

どうせバカにされるんだろうなと、つい投げやりな感じで言ってしまう。

女子同士で恋愛の話になった時に経験がないと答えると、ほぼ決まって【お子様】だと言われるのだ。

恋をしたことがあるから【大人】という訳でもないだろうに、なんて捻くれたことを考えてしまう。

「笑わへんよ。」

「口元がにやけてる自覚ないんだ?」

半目になった私が指摘すると、白石はなぜかいつも包帯が巻かれている左手で口元を隠した。

「別にいいよ。これ言うと子供扱いされるのはいつものことだから。」

それこそ子供っぽいけれど、思いきり拗ねた声になってしまっている。

「バカにした訳ちゃうねん。その、……みょうじは好きな奴おらんみたいやから…」

言葉を途切れさせた白石を不思議に思って見ていると目を逸らされた。

「俺にもチャンスあるかと思うて。」

口元に手をやったままの白石の言葉が予想外すぎて驚く。

「まさか……私のことが好きなの? 白石って趣味悪いんだね。」

「いやいやいや! その返しはおかしいやろ!?」

パッと私に視線を戻した白石がツッコむのを見て、やっぱり関西人なんだなと場違いであろう感想を持つ。

「そうかな? 私が男の子だったら、いろんな意味でもっと可愛い子がいいけど。」

私は自分のことを分かっているから。

中身も外身も大して可愛くない、というのが客観的な評価だろう。

「俺はみょうじがエエんやけど。」

「……なんで?」

イケメンに好かれていたら普通は嬉しいと思うのが先なのだろうけれど、私は疑問しか浮かばない。

「それは……ひとまず置いとこか。」

いったん言葉を切った白石が私を強く見つめる。

「分からんっちゅうなら、俺と恋愛してみいひん?」

少し赤い顔をした白石があんまり真剣な顔をするものだから、私は息をするのを忘れそうになった。



恋の年頃

(2024.07.21)

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