※未来設定
恋人/ヒロイン視点
正直、ここまで続くとは思っていなかった。
雅治とは高校生の時に出会って、それから色々あったりなかったりして付き合い始めた。
気紛れな雅治に振り回されながらも交際は続いて、大学生になってからはほぼ同棲しているような状態だった。
就職が決まって社会人になってからは通勤のことを考えて新しい場所に引っ越して、それからはずっと一緒に暮らしている。
「よく続いたよね、私達。」
ソファーに座ってスマホで動画を見ていた私は、お風呂から上がってきた雅治を見ないまま呟いた。
「なんじゃ、急に?」
隣に座った雅治が寄りかかってきて、そのまま体重をかけられる。
「重いんだけど。」
スマホを置いて、ぐいぐいと両手で雅治を押し返す。
「これは俺の愛の重さぜよ。ありがたく受け取りんしゃい。」
「バッカじゃないの。」
「酷いのう、なまえは。」
よっぽど機嫌がいいのか、雅治はくつくつ笑いながらは私にキスしてくる。
「冷たっ! 髪乾かしてないじゃん!」
濡れたままの髪からポタポタと水滴が落ちてきて、私は雅治の肩を軽く叩いた。
「随分と可愛げがなくなったのう。昔はキスしただけで真っ赤になっとったのに。」
「いつの話よ。っていうか、雅治と一緒にいたら可愛げなんてなくなるから。」
「俺が悪いん? ……いや、機嫌が悪いんか。どうしたんじゃ?」
少し困ったような顔をする雅治を私はじろっと睨む。
「雅治が悪い。」
「今日は勝手にプリン食べてないぜよ。」
「そうじゃなくて…!」
抵抗せずに私に押し倒されてソファーに仰向けになった雅治のおなかの上に跨る。
「えらい積極的やのう、なまえ。欲求不満だったんか。」
ゆったりしたショートパンツから伸びる太腿を撫でてきた手をぎゅっと抓る。
「痛いんじゃけど。さっきから暴力が過ぎるんじゃなか?」
「私達、もうすぐで付き合って10年になるよね。」
「そうだったかのう? 時間が経つのは早いもんじゃな。」
「そろそろいい年だよね。」
「言う程の年じゃないと思うがのう。まだ20代なんじゃし。」
「だから、そうじゃなくて。……いい加減に覚悟を決めなさい、って言ってるの。」
雅治の顔の横に両手をついて、至近距離で金色の目を覗き込む。
「今日は俺が襲われるん?」
「違うって言ってるでしょ。」
絶対に分かっている癖に、この期に及んでのらりくらりと躱すつもりか。
「よーく聞きなさい、雅治。」
待っていても埒が明かないから、私から言うしかない。
「幸せにしてあげるから私と結婚しなさい。」
「……なんだかのう。」
意を決して言ったというのに、溜息をついた雅治は片手で目元を覆う。
「私は真剣なんだけど。」
「俺だって、ちゃんと考えとったんじゃ。」
目元を隠していた手を退けた雅治はいつになく真面目な顔をしていた。
「来月じゃろ、付き合って10年目の記念日があるの。指輪、用意しとったんよ。」
「う、嘘…っ」
「ちゃんとプロポーズする予定やったけえ。」
恨めしげな目で見られて、申し訳ない気持ちになるけど、それよりも嬉し過ぎる。
「大好き、雅治…っ」
雅治の首に腕を回して抱き着くと、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「俺は愛しとうよ。」
早く私を幸福にして
(2024.06.08)
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