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後輩/千石視点


「そっか、残念だなぁ。じゃあ、また今度ね〜」

最終的には断られてしまって笑いながら手を振り、再び道を歩いている女の子たちに目を向ける。

可愛い子たちは見ているだけで癒されるから止められない。

けれど、ここ最近はもう一つの楽しみがある。

たまに声を掛けてくれる彼女の存在だ。

ただし、彼女について知っているのは名前と同じ学校の後輩ということだけ。

彼女のほうからお茶に誘ってくれるのに、なぜか連絡先を一切教えてくれないのだ。

気になって他学年の教室に探しに行ってみたことがあるけれど、タイミングが悪かったのか、彼女を見つけることは出来なかった。

それ以来、学校で彼女を探したりはしなかった。

だって、探さなくても彼女とは会うことが出来るから。

そんなことを考えながら通りを歩いている女の子たちを眺めていた俺は、その中に彼女の姿を見つけようとしている自分に気付いた。

今日は彼女と会えるだろうか。

「こんにちは、千石先輩。」

声がしたほうにパッと振り向けば、今まさに考えていた彼女がニコニコと笑いながら立っていて、それだけで嬉しくなる。

「なまえちゃん! 俺に会いに来てくれたの?」

「いいえ、偶然です。」

彼女はニッコリ笑って否定したけれど、ここまで偶然が重なるとはさすが思えない。

だから、本当は俺に会いに来てくれている可能性はあるんじゃないかと思っていたりする。

いまいち自信はないけれど。

「残念だなぁ。それはそうと、今度の日曜に俺とデートしない?」

「…どうしてですか?」

「え? どうしてって……可愛いキミとデートしたいからだよ。」

なんだか複雑そうな顔をした彼女に戸惑いながら答えると、なぜか彼女は下を向いてしまった。

「私……偶然じゃなくて、本当は先輩に会いに来てたんです。」

俺の希望を含んだ予想は当たっていたけれど、だったら彼女はどうして俯いているのか。

「それで、……でも、他の女の子と同じ扱いは嫌だから…」

「ちょっと待って!」

今にも立ち去りそうな様子を見せる彼女の言葉を、俺は咄嗟に遮った。

「そんなこと言わないでよ。俺がキミを誘ったのは……その…」

「…千石先輩?」

おずおずと俺を見上げた彼女の目は不安そうに揺れている。

「ええっと、ね…」

情けないことに、ものすごく緊張している。

だって、今日こんなタイミングで言うつもりじゃなかったから。

でも、彼女の誤解を解くには、いま言わなきゃいけない。

「俺、キミと話すのが楽しくて、キミが笑ってくれると嬉しくて……気付いたら、キミのこと好きになってたんだ。だからさ…」

「っ、……う、嘘…っ」

心底驚いた顔をした彼女の目を見つめ返すけれど、自分の顔が熱くなってくるのが分かる。

「本当だよ。キミのことが好きなんだ。だから、俺と付き合ってください。」

「嬉しいです…っ 私も、先輩のこと、大好きだから…っ」

真っ赤になって、でも嬉しそうに微笑んだ彼女は今まで一番輝いて見えた。

「よ、良かった〜」

緊張が解けて力が抜けた俺は、その場にしゃがみこんだ。

「先輩?! 大丈夫ですか?」

両手で膝を抱えてしゃがんだ彼女が俺の顔を覗き込んでくる。

「大丈夫だよ。でも……情けないなぁ、俺。」

自分の余裕の無さに苦笑いが浮かぶ。

「そんな事ないです。真剣に告白してくれて……カッコ良かったです。」

「そ、そう?」

頬を染めたまま真っ直ぐ見つめてくる彼女が眩しくて、心臓がうるさい。

「はい。あと、私も先輩の笑った顔が好きです。」

そう言った彼女がいつものように笑うから、こんな俺でもいいかって思えてくる。

「ありがとう。……本当はさ、デートした後でイイ感じになったら告白するつもりだったんだよね。」

「それは……ごめんなさい。」

「あっ、いや……いいんだ、それは。それより、日曜日はデートしようね?」

「はい、楽しみにしています。」

にっこりと、彼女は俺の好きな笑顔を見せてくれた。



きみは僕を明るくする

(2024.04.12)

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