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後輩/ヒロイン視点


学生鞄から折りたたみの鏡を取り出して、髪が乱れてないか唇が荒れてないかとチェックする。

爪は昨日整えて磨いたから問題ない。

建物の角から顔だけ出して、今日も女の子に声をかけている先輩の姿をこっそりと窺う。

ちょうど先輩が話をしていた女の子と別れたから、私は肩を落としている先輩に近付いていった。

「こんにちは、千石先輩。」

「なまえちゃん! どうしたの、こんな所で?」

声をかけた私に振り返った先輩はすぐにへらりとした笑顔を浮かべる。

「友達と駅前のお店を見てたんですよ。」

にこにこと笑いながら嘘が言える自分が少し嫌になる。

「そうなんだ。その友達は一緒じゃないの?」

「はい、帰る方向が違うので。ところで、今日の成果はどうだったんですか?」

「いや〜、それが全然…」

がっくりと項垂れる先輩に、私がかける言葉はいつも決まっている。

「じゃあ、私と少しお茶でもしませんか?」

「もちろん! 俺ってばツイてるな〜」

「そんなこと言って、本当はもっと可愛い子が良かったんじゃないですか?」

テンションを上げた先輩にふざけて返した自分の言葉に、自分で傷付くなんてバカみたいだ。

「いやいや、そんなことないよ〜 っていうか、なまえちゃんは可愛いし。」

「先輩が言うと何だか嘘っぽいです。」

私は可愛くないことを言って、先輩の隣に並んで歩き出した。


● ● ●


「いいかげん目を覚ましなさい。ってか、止めなさい。」

放課後の教室で机を挟んだ向かいに座っている友達が呆れた顔をしている。

「やだ。好きなんだもん。」

「あんな軽い人のどこがいいワケ?」

「優しいところ。」

「そりゃあ優しいでしょ。女の子には誰でも。」

「人によって態度を変えるより、みんなに優しいほうがいいじゃない。それに、先輩は本当は努力家なんだよ。」

トゲトゲしい言い方をする友達に、少しムッとしながら言い返す。

「どこが? しょっちゅう部活休んでナンパしてるらしいじゃん。」

「それは……でも、一人で練習してるところを見たことがあって、すごく真剣で格好良かったんだから。」

「はぁ、何を言ってもムダか。」

ため息をついた友達はこれ見よがしに肩をすくめる。

「なによー」

先輩の良さを分かってもらえなくて、ちょっと憤慨してしまう。

「じゃ、その大好きな先輩のところに行ってきたら? ってか、もう告白しちゃえば?」

投げやりな感じで言うのを見るに、『早く振られてしまえ』ということなんだろうか。

「他の女の子と扱いが変わらないうちはダメだよ。」

少し落ち込んだ私は机に突っ伏して目を閉じ、鮮やかなオレンジ色の髪をした先輩の姿を脳裏に描いた。

「じゃあさ、何度も会ってるならIDとか交換すれば? たぶん教えてくれるでしょ。」

「それはそうなんだけど、『男は追われるよりも追いかけたい生き物』らしいから。」

「それが連絡先を交換しないことに繋がるわけ? 普通にさ、連絡取り合って仲良くなったほうがいいんじゃないの?」

「……やっぱり?」

顔を上げて友達を見れば、また呆れた顔をしていた。

次に先輩に会ったらIDを交換してもらうべきだろうかと真剣に悩むけれど、すぐには答えが出ない。

「そもそもだけど、カフェデートはしてるのに。」

「あれはデートじゃなくて、ただお茶してるだけっていうか…」

「いや、意味分からないんだけど?」

今度は思いきり怪訝な顔をされてしまう。

「あのね……先輩って、デートした子とは1回きりらしいんだ。」

「そうなの? 毎回女の子からフラられてるってこと?」

「詳しいことは分からないんだけど、1回デートしたら相手に興味がなくなっちゃうって可能性もあると思うんだよね。」

「あー、だから片っ端からナンパしてるって言われたら納得かも。……やっぱり目を覚ましなさい、なまえ。」

友達が心配してくれているのは分かっているけれど、諦めることは出来そうになくて、私はあやふやに笑った。



あなたは私を明るくする

(2024.04.12)

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