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恋人/ヒロイン視点


「どこに行くのかな?」

目が覚めてベッドから抜け出そうとしたところで、精市に背中から抱き締められた。

首筋に精市の息がかかり、くすぐったさに小さく肩をすくめる。

「ごめん、起こしちゃったよね?」

首を動かして精市の顔を見ようとしたけれど、真っ暗で何も見えない。

「それはいいからさ、どうしたの?」

「ちょっと喉が渇いちゃって…」

「じゃあ、俺が取ってくるよ。水でいいかい?」

「…うん、ありがとう。」

自分の家ではないから精市に頼んだほういいだろうと考えて、素直にお願いする。

「いえいえ、どういたしまして。」

精市は少し笑いながら言って、私の頬に口付けてからベッドを後にした。

ベッドを出た精市が間接照明を点けていったから部屋の様子が見える。

「………………」

二人で寝ても余裕のあるベッドは自分一人だけになると広すぎるように感じて、ついさっきまで精市が横になっていた場所に移動する。

「……あったかい。」



うとうとしていた私はドアの開く音で目を覚ました。

「なまえ? 寝ちゃった、かな?」

「起きてるよ。」

窺うように小声になっている精市に返事をしてベッドから身体を起こす。

「はい、水のお届けです。」

ふざけているのだろう、少し畏まった感じで言う精市がおかしくて、思わず笑ってしまう。

「ありがとう。」

水の入ったグラスを両手で受け取り、こぼさないように少しずつ水を飲む。

「ところで、なまえは何でそっちにいるの?」

「……なんとなく、だけど。」

グラスから口を離したタイミングで聞かれて、少し目を逸らしながら答える。

「なまえは寂しがり屋だね。」

笑みを浮かべた精市に思いきり図星を指されてしまい、ぐっと言葉に詰まる。

精市は押し黙った私の手から空のグラスを取り上げて、近くに置かれているサイドテーブルに置いた。

そして、私の隣―もともと私が寝ていた場所―に潜り込んできた。

「ほら、横になって。」

私のほうを向いて片肘をついた精市がぽんぽんと軽く枕を叩く。

機嫌の良さそうな精市に言い返す気も起きなくて、私は大人しくベッドに身体を沈めた。

仰向けになった私に精市の手が伸びてきて、すりすりと頬を撫でられる

「寝るんでしょ?」

「うん。だからさ…」

ニコニコしている精市はベッドについていた腕を伸ばして、そこに頭を置くように促してきた。

どうやら腕枕をしてくれるつもりらしい。

「ダメだよ。腕に負担かかっちゃうじゃない。」

「これくらい大丈夫だよ。」

「ダメです。ちゃんと大事にしてください。」

「…残念だな。」

精市は「気遣ってくれるのは嬉しいけど」と言いつつ、わりと本気で残念そうな顔をする。

そんな顔をされると困ってしまうけれど、自分の身体は大事にして欲しい。

「じゃあさ、なまえがもう少し下のほうにずれて…」

腕枕は諦めてくれたらしい精市の言葉に従って、枕と一緒に位置をずれる。

さらに言われるままに精市と向かい合うように体勢を変える。

「これならいいだろ?」

私との距離を詰めた精市の片手が背中に回されて、頭の上から声が降ってきた。

「…うん。」

小さい声で返した私は精市の胸に額を寄せて目を閉じた。

精市が微かに笑った気配がして、頭に口付けられたのが分かった。

灯りが消されて部屋が暗闇に包まれる。

「おやすみ、なまえ。」

そっと空気に溶け込むような声で言って、精市は私の足に自分の足を絡めてきた。

思わず身体を揺らした私を逃がさないとでもいうように、背中に回っている手に力が込められる。

私は抵抗するだけ無駄だと諦め、開けた目を閉じて身体の力を抜いた。

「おやすみなさい、精市。」



抵抗できない

(2024.01.06)

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