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恋人(後輩)/ヒロイン視点


ここまで荒れるという予報じゃなかったのに、と眉を落としながら窓の外を見る。

6時限目の途中で雨が降り出したけれど、最初はそんなに強い降りではなかった。

けれども、時間が経つにつれて雨は勢いを増して風も強くなってきた。

ついには遠くで雷も鳴り始めて、放課後になってから時間の経った図書室には人気がない。

自分も図書委員の仕事がなければすぐに下校していただろう。

受付カウンターにいる必要もないからと、しばらく本棚の整理をしていたけれど、それも終わってしまった。

本棚と本棚の間の通路を歩きながら、顔をきょろきょろと左右に振って目的の人を探す。

だんだんと雷の音が近付いてきていて心細かった私は、立ったまま本に目を落としている横顔を見つけて安心した。

「ここにいたんですね、蓮二せ、…っ」

先輩が本から顔を上げた瞬間、何度目になるか分からない閃光が走り、私はビクッと肩を跳ねさせた。

「大丈夫か?」

立ちすくんでいる私のそばに来てくれた先輩を見上げたところで、ひときわ強い閃光が走ったと同時に轟音がして電気が消えた。

声にならない悲鳴を上げた私は両手で頭を抱えてその場に座り込んだ。

最近は日が短くなってきたこともあって、照明の消えた図書室の中は思いのほか暗い。

「なまえ。」

落ち着いた声で名前を呼ばれて、先輩の手が私の丸まった背中に添えられた。



下手に動き回らないほうがいいだろうという判断から、私たちは図書室に留まることにした。

先輩は本棚を背にして床に緩く胡坐をかいて座ると、普段は見ない姿を見て少し驚いている私に視線を向けた。

「こっちにおいで。」

優しい声に招かれ、先輩の隣に座ろうとすると手を引かれた。

なすがままに私は先輩の足の隙間に横向きで三角座りをする形で収まってしまう。

「あの…?」

戸惑う私の頭を自分の胸に預けさせた先輩は、反対側の手で私の肩を抱き寄せた。

ちょうど先輩の心臓の位置に私の耳が当たって、規則正しい心音が聞こえてくる。

そして、空気を満たしている本の匂いよりも先輩のシャツの清潔な香りが鼻をかすめる。

「これで少しは落ち着くだろう?」

「……はい。ありがとうございます。」

先輩に身体を預けて目を閉じると、そっと頭に口付けを落とされた感触があった。

「っ、……蓮二先輩は、私をどうしたいんですか。」

「お前に怖い思いをして欲しくないだけだ。」

少しだけ笑いを含んだ声で言って、先輩はまた私の頭に口付けた。

口を開こうとした瞬間、また雷が光って、私は先輩にしがみついた。

先輩が私を抱き寄せている手の指先で宥めるように肩を撫でる。

雷は徐々に遠ざかりつつあるようで、音は先程より遅れて聞こえてきた。

それでもまだ雷の音は大きくて、先輩の制服を握る手に力が入ってしまう。

無意識に息を詰めていると先輩の温かい手が私の目元を覆った。

「大丈夫だ、なまえ。俺がいるだろう。」

言い聞かせるような穏やかな声が落ちてきて、身体の強張りがいくら緩む。

「…はい。」

私は先輩に凭れかかったまま、少しも乱れない心音に耳を傾けた。



僕と一緒にいれば安心

(2023.11.26)

 

タイトルは七竈(ななかまど)の花言葉の一つです。七竈は、日本では火災避け・落雷避けの木とされてきたそうです。ちなみに、北欧では魔除けの木とされているとか。

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