恋人(後輩)/仁王視点
放課後になり、約束していた通りに教室まで迎えに行ったが、そこに彼女の姿はなかった。
彼女の席に荷物がないということは、一時的に席を外しているという訳ではないのだろう。
廊下の壁に背中を預け、制服のポケットから取り出したスマホを確認するが、彼女からのメッセージや着信はない。
何か急用が出来て先に帰ったという訳でもないらしい。
ひとまずメッセージを送ってみる。
どこにおるんじゃ?
どこでしょうね?
すぐに返って来たメッセージを確認してスマホをしまう。
「探せってことじゃろうな。」
普段はこんな突拍子のないことをやらない彼女だが、一体どうしたのか。
彼女は一つ所に留まっていないのか、心当たりの場所を回っても見つからない。
さすがに俺を置いて帰ったとは思えないが、彼女はどこに行ったのか。
「俺のほうが振り回されるとはのう。」
一人で廊下を歩きながら、そう零したところでスマホの通知が鳴った。
早く迎えに来てください
そろそろ凍えそうです
そこから動くんじゃなかよ
校舎内ではなく屋外にいるということか。
それなら、彼女がいる場所は――
「はぁ……おったか。」
他に誰もいない屋上の給水塔の上に登ると、しっかりと上着を着込んだ彼女がいた。
屋上にも探しに来ていたが、ここまでは確認していなかった。
初歩的なミスというか何というか。
「遅いですよー」
膝を抱えて座っていた彼女は立ち上がると、俺の前まで歩いてきた。
「何で急にこんな真似したんじゃ?」
「雅治先輩のことが知りたかったんです。」
今日の彼女はどうにも読めないなと、自分を見上げる彼女を見下ろす。
「フラフラいなくなる先輩をいつも私が探してますけど、お願いしても止めてくれないのはどうしてなのかなって思って。」
彼女を探しながらいつもと逆だとは思っていたが、そういうことだったのかと納得する。
「で、答えは分かったんか?」
「ええと、たぶん? 私は先輩に見つけてもらえて嬉しかったから……そういうこと、なんですよね?」
彼女は俺の背中に両手を回して、ぎゅうぎゅう抱き着いてきた。
「どうしたんじゃ?」
俺の胸に顔を埋めている彼女の頭を撫でてやる。
「待っている間って、なんだか心細いですね。……来てくれないかと思いました。」
「信用が無いのう。俺はなまえが絶対に来るって分かっとるけえ、待つのも楽しかったんよ。」
「だって……雅治先輩なら、すぐに見つけてくれると思ったのに。」
「あー、そいつは悪かったナリ。……冷え切っとるな。」
俺の胸から顔を上げた彼女の頬を両手で包み込むと、すっかり冷たくなっていた。
「大丈夫ですよ。」
彼女は俺の手に上から自分の手を重ねて、ゆるりと目を細める。
「今日は俺の家に寄っていきんしゃい。」
「はい…?」
きょとんと無防備に首を傾げる彼女の耳元に顔を寄せる。
「元はと言えば、俺の所為みたいじゃし? 俺が責任持ってあっためてやるけえ。」
低く囁いて、冷えて少し赤くなっている彼女の耳に唇を押し当てた。
「っ……な、な…」
片耳を押さえて真っ赤になった彼女を逃がさないように抱き締める。
「俺のことが知りたいんじゃろ? じっくり教えてやるきに。」
「意味がっ、わからないです!?」
「フッ……十分、あったまったみたいやのう。」
彼女の目を覗き込みながら、わざとらしく唇の端を吊り上げる。
「もう! からかったんですねっ?!」
きゅっと眉根を寄せて俺を睨む彼女だが、少しも迫力がない。
「そんな可愛い顔で見上げなさんな。ほんとに持って帰るぜよ?」
ここに来て
(2023.11.11)
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