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同学年/ヒロイン視点


今日は10月31日――つまり、ハロウィンだ。

この学校の生徒なら全力で乗っかるだろうと思って登校すると、やっぱり仮装した生徒が多くて、いつも以上に賑やかだった。

普通に制服を着ている自分は逆に目立っているような気がしないでもない。

(あ、千歳くんだ。)

生徒玄関で上履きに履き替えた私は、周りよりも頭が飛び出ているせいで人の多い廊下でも目立つ姿を見つけた。

この時間に学校にいるのが珍しい千歳くんは教室に向かうつもりはないらしい。

まだHRまで時間があるからと、私は千歳くんの後を追うことにした。

歩幅が違うせいで追いつけないまま特別教室棟まで来ると、千歳くんはなぜか鍵が開いている視聴覚室へと消えた。

授業をサボるつもりなんだろうかと考えつつドアを引く。

「お邪魔しまーす。」

声をかけてから中に入ると、床に座っていた千歳くんと目が合った。

「みょうじ?」

「ええとね、ついてきちゃった。声をかけようと思ったんだけど、追いつけなくて。」

「そうやったと? すまんね、気付かんかったばい。」

「いやいや、謝らないで。千歳くんが悪いとかじゃないんだし。……隣、座ってもいい?」

クラスの違う千歳くんとは会う機会が多くはないから、できれば少しでも話したい。

「もちろんたい。」

千歳くんが笑って自分の横の床を軽く叩くのを見て、それなりに歓迎されているようだと安心する。

後ろ手でドアを閉めてから、ゆるく胡坐をかいている千歳くんの隣にぺたんと座った。

「今日は早いんだね。」

「朝練……というかハロウィンの打ち合わせで強制参加やったけん。」

「そうなんだ。みんな熱心だね。」

お笑いに貪欲なのはテニス部も例外ではないんだなと笑う。

なお、千歳くんは一緒に何かするわけではなく見る側で呼ばれたらしい。

「そうだ、お菓子いる? ハロウィンだから持ってきたんだよね。」

お菓子の入ったラッピング袋を取り出そうと、学生鞄とは別に持ってきた布バックの口を広げる。

「それ、何ね?」

「え? ……あ、これはね。」

視線が注がれているのに気付いて、布バックからハロウィン用のグッズであるカチューシャを二つ取り出す。

「一応は用意したんだけど、みんな本格的すぎて出番はないみたい。」

ここに来るまでの光景を思い出して苦笑いをするしかない。

「色々すごかったとね。」

「うん。……ねえ、千歳くん、ちょっとハロウィンっぽいことしない?」

ちょっとした悪戯(?)を思い付き、千歳くんの頭に黒い猫耳のカチューシャを着けた。

少し戸惑った顔をした千歳くんが可愛くて、私は少し笑いながら赤い悪魔の角のカチューシャを自分の頭に着ける。

「これで一緒に撮ろう。」

学生鞄から出したスマホを撮影モードして、腕を伸ばして構える。

「近付いてくれないと二人で映らないよ。」

ドキドキしながら隣の千歳くんのほうに少し身体を寄せる。

「楽しそうっちゃね。」

少し困ったように笑った千歳くんだけど、身体を傾けて顔を寄せてくれて、カメラの画角に二人で収まることができた。

「うん、楽しいよ。」

心の中で『千歳くんと一緒だから』と付け加えて、シャッターを切る。

「……よし、上手く撮れた。ありがと、千歳くん。」

手元のスマホの画面から顔を上げて、千歳くんに笑顔でお礼を言う。

「よかよ。……そやけど、これはみょうじのほうが似合うとね。」

何が、と聞き返す前に光沢のある悪魔の角が取られて、代わりにふわふわの猫耳を着けられた。

大きな手が頭のてっぺんに置かれて、ポンポンと撫でられる。

予想外の行動に言葉が出ず、頬が熱を持つのを自覚していると、千歳くんが悪戯っぽく笑った。

「ほんなこつ可愛かね。」



悪戯心

(2023.10.31 初掲)□□□□
(2023.11.04 タイトル変更)

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